第4話 裏方の素顔


「いらっしゃいませ、お待ちしていました」



 素では、はしゃぎっぱなしだったれいでも……仕事に取り掛かれば、猫を被るくらい当然。水商売ではなくても、上品さを求められるホテル業務では仕方がないのだ。


 その日は、近辺の企業が懇親会を開くと言うことで立食スタイルのパーティーを少し大きな部屋で行うことになり。


 怜はまだ二年目とは言え、バイトとしてはそこそこベテランなため……ウェルカムドリンクなどのバーカウンターに立っていた。この台は固定ではなく移動しやすいようになっているので、配置場所はその都度変わる。



(う〜〜……料理美味しそう)



 立食スタイル……つまり、ビュッフェなので様々な料理がセッティングされたテーブルに上に並んでいる。まかないを食べたと言うのに、まだまだ育ち盛りの二十歳前後でしかない怜の胃袋は……無尽蔵ではないものの、ぺこぺこなのである。


 最も、この料理達もすべて客が食べるわけではないので……パーティーが終わり、会場からスタッフだけとなったら取り合い合戦となるが。


 上司達も上品な装いをしていたはずなのに、やはりそこはただの人間だ。それくらいの楽しみがあってもいいだろう。


 その日も結局、予想通りの取り合い合戦をしたことで……残りの仕事も励みに励み。


 完全に終わったところで、くたくたになりながらロッカールームに行くと……まかないの食堂はとっくに終わっているのに、裕司ゆうじが喫煙スペースでタバコを吸いながらスマホをいじっていた。



「こもやん?」


「お疲れさん。終わり?」


「うん。あと着替えるだけ」


「そっか。待っとく」


「なんかあった??」


「……明日、怜やんの誕生日じゃないか」


「おお! 忘れてた」



 だから、一緒に居たいと言う……少々不器用なりの裕司からの提案だったのだ。


 出会って、一年だが。


 付き合うようになったのは、まだ半年程度。


 怜は急いで着替え、ロッカーも少し綺麗にしてから……待っていてくれた裕司の腕にしがみつき、一緒に帰ることにした。



「今日の津餃子、ほんと美味しかった!」


「お粗末さま〜。久しぶりだけど、怜やんが好きだと思ったからさ?」


「こもやんの料理は天下一品!」


「大袈裟だけど……まあ、あんがと」


「誕生日には何作ってくれる??」


「それは流石にお楽しみってことで」


「え〜〜……」



 しかし、裕司が楽しみにしてろと言うのなら絶対ハズレはない。それを素直に楽しみにすることして、どちらの部屋に行くか聞けば、怜の部屋にしようと裕司は言ったのだ。

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