第二章 小森の場合①
第1話 平凡はゆるやかに
三重県と言う、神事にも食にも文化が富んでいる地域の出身のため……県外に出て、専門学校に入学するまでは色々なことが当たり前だった。
その当たり前が、実は三重県だけとか……わかって隣の県とか知った時は少なからず驚いたが。
とにかく、ビジネスホテルの一角の中で……社員食堂のようなところでバイトをすることになってからは、決まった時間帯はあり合わせの食材でまかないを作っていいのが気に入っていた。
それはご飯ものだったり、デザートだったり……いつしか、上司に褒められるようになってきたため、それらを食堂のメニューに加えられるようになった。
例えば、怜が物凄く気に入ってくれた『津餃子』とか。
高速のサービスエリアとかで、子供の頃に裕司が両親にねだるほどよく買ってもらった覚えがある料理だ。スナック感覚で食べれるため、地元ではあちこちにあったりする。
それを……料理人を目指すようになったからとは言え、皮から作るようになるとは思わなかったが。手間はかかるが、怜が入社した前後にも出したら物凄く喜ばれたのだ。
(……それを、二年近く続けられたのも)
専門学校帰りなどのバイトに選んだのだが、楽しむように作るのはあまりなかった。時給がそこそこ良いのがメリットくらいで。
怜と出会った時も、食堂での仕組みがよくわかっていない女子大学生らしい初々しさに……つい、教えてあげた時に、これは三重県に多い食べ物だとも教えたらびっくりしていた顔が可愛かった。
まさか、その半年後に付き合うようになるとは思わなかったが。
「……よいしょ」
裕司は、怜の家に泊まった翌朝……まずは、朝ご飯だとベッドから出た。
昨夜は怜が会場設営の仕事の関係で少し遅かったため、ふたりでこちらに来たら簡単にシャワーを浴びて寝たのだ。やましい事は何ひとつしていない。
タバコを吸いたいところだったが、同棲しているわけでもないため、この部屋にヤニの臭いをつけたくない。以前適当に買ったのど飴で我慢することにした。
「……うーん」
普段から、料理は必要最低限しかしない怜なので……今日のお昼に使う食材以外はあまり材料が揃っていない。
昨夜、勤務地近くの深夜まで開いているスーパーでそこそこ買い出しはしたがここまでないのは想定外。冷蔵庫に買ってきたものを入れた時は半分寝ぼけ眼だったので、あまり覚えていなかった。
「……怜やんはなんでも美味い美味い言ってくれるだろうけど」
可愛い彼女のために、今日が誕生日であるからひと肌脱ぎたい。
だけど、メインの誕生日会用の食材はあまり多く使えない。
なら、と冷蔵庫以外も物色してみると……少し厚切りの食パンが数枚ある袋があった。
「……炭水化物ばっかだけど、昼もそんなだしいいよな?」
それに多めに買っておいた、卵におつまみ用のプロセスチーズも使って……コンビニとかで、店内キッチンがたまに作るような『目玉焼きトースト』を作ってみることにした。
それだけでは寂しいので、もうひとつはピザトーストにしようと決めて。
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