第3話 勘違いの勘違い②

 それから、待つこと十分程度。


 真尋まひろと特に会話もせずに、ふたりで大人しく廊下で待っていると……ゆっくりとだが、扉が開いた。


 皐月さつきかと思ったが、違った。


 れいだった。


 泣き過ぎて、顔はメイクも何もかもボロボロになっていたが……反省の色がありありと見えていた。


 裕司ゆうじはいつもなら抱きしめてやりたいが、真尋の手前と言うことよりも……怜の様子を伺いたかったので我慢した。



「…………ごめん、なさい」



 きちんとした、謝罪。


 それを受け取ったので、裕司は迷わず両手を広げてやると……怜は嗚咽を出しながら、泣きじゃくって裕司の腕に飛び込んできた。



「うわぁあああああん!!」



 服が涙もろもろで汚れることも厭わず、裕司は飛び込んできた怜の頭を撫でてやった。真尋の方も特に何も言わず、怜が泣き止むのを待ってくれた。


 だいたい20分か30分……もう少し短かかったかもしれないが。怜はなんとか泣き止み、真尋ともきちんと話し合うことになったので皐月のところの洗面所を借りて、顔を整えにいくと行った。



「…………ほんと。怜が疑うほどですね」


「あら、そーぉ?」



 皐月は家主らしく、茶や菓子を用意してくれた。


 冬と言うこともあり、コーヒーか紅茶かを聞かれたので、裕司はコーヒー。真尋は紅茶を選んだ。怜のように仕事柄、挽いた粉などから淹れれないようなので……インスタントだが。


 それはどうでもいいので、裕司は早く怜が戻って来ないか気になった。泣き顔が凄かった分、出来るだけ彼女を安心させてやりたいのだ。



「こいつは……高校からこうだから、身内からだと今更って感じだったからさ? 忘れてた俺も悪い」


「……身内ってことだから、仕方がないとも言えませんが。声聞かなきゃ、わかりませんよ」


「ンフフ〜? 声だけはどうしようもないわ〜」



 本当に、声だけは高めにしても裕司にしたって気持ち悪いと思ってしまうくらい。


 皐月の準備が出来た頃には、怜の準備も出来たようだが……ちょこんと覗く様子でリビングの扉から顔を覗かせていた。



「怜やん?」


「…………こもやん」


「ん?」


「…………怒って、ない?」


「ないない。俺が真尋んこと、すっかり忘れてただけだし」


「…………ん」



 すすす、っと出てきた怜は……裕司の隣に座ろうとしたが、まずはソファの前に座っていた真尋に向かって腰を折った。



「ん?」


「……勘違い、してごめんなさい」


「あらいいのよ? あたしはこう言う人間だもの?」


「…………羨ましいくらい、綺麗だったから」


「あら嬉しい? さすがは、ゆーちゃんが見初めた彼女ちゃんね?」


「……ども」



 真尋にも謝罪してから、怜は裕司の隣に座ったので……裕司はいつもどおりに彼女の頭を撫でてあげた。ホッとした表情になっていたが、真尋からの視線が生温いのは居心地が悪い。



「はーい。ちょうど、人気の焼き菓子専門店のお菓子あるんです。人数分あるので、食べちゃいましょう?」



 皐月がテーブルに置いたのは、色とりどりのマカロンだった。

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