第2話 温水プールへ②

 裕司ゆうじの通っている専門学校には、特に部活動がないと聞いている。


 それなのに、なんとたくましい体つきなのだろうか。共寝はするが、れいと付き合うようになって半年でもそのような関係にはまだ迎えていない。


 お互いに、バイトは肉体労働。休みが合わないわけではないけれど……この前の怜の誕生日会ですら、そういうことはなかった。さすがに、キスは済ませているが頻繁ではない。


 喫煙者である裕司とのキスは多少苦いが、怜は嫌いではない。


 それはともかく、横目で見ていた素晴らしい肉体美を賞賛せねば。



「こもやん、こもやん!」


「何だね、怜やん?」


「なんか鍛えてたのかね?」


「え? ああ……腹??」


「そーそー! 何したらそんなに割れるの!!?」


「ふぅむ。大したことしてないけど」


「けど?」


「変わったことしているのなら……ダンスっぽいことかな?」


「初耳でふよ!」



 その間に、準備運動も終わったのでプールに入る前に話すことになった。



「高校でさー?」


「うんうん」


「うちの地元だと、『よさこいソーラン節』ってのが昔からあって。ま、他の地域にもあるんだけど。ちっちゃい頃から踊ってたのもあって、高校の応援合戦で提案したらやりたい連中が多くてさ? アレンジは当然したけど、三年間クラス替えしても俺が教えたわけ」


「それと腹筋が??」


「ああ。演目じゃないけど……盆踊りみたいなのもあって、動画でも配信されているから運動不足解消も兼ねてやっているぜよ」


「ほうほう! 楽しい?」


「結構体力持ってかれるけど……やっぱり踊り慣れているのは楽しいねえ?」



 また恋人の、意外な一面を知れて嬉しかった。


 怜も教えていないことはあるが、こうやってバイト時間以外に共有出来るのも嬉しい。


 そして、せっかくのプールでは流れるプールが多かったので、歩いて泳ぐ感じでコースを進んでいく。



「おお! 結構足にくる!!」


「歩行だけでも、筋肉引き締まるらしいよ?」


「やる!……普通のプールでもいけるかなあ?」


「多分ねー? 俺らの時給じゃ、ジム登録厳しいけど」



 お互い、バイト代の大半は生活費と学費で消えていく。


 怜は私立大学のため、生活費は両親の仕送りも使っているが……学費は奨学金を使っても自分で納めている。それと、食事とかは妥協したくないため、裕司のまかない以外は食べたいものがあると……ついつい買い食いしてしまうのだ。


 裕司も四年制の専門学校なため、学費は大学並みにあるらしい。外部サークルに入る余裕もなく、怜と付き合うまではバイト代をほとんど学費に費やしていたそうだ。生活費については、怜と同じ両親からの仕送りを頼りにしているとか。



(こもやんと付き合ってから……ちょーっと食生活変わったけど)



 外食は少しずつ減り、お弁当屋さんやスーパーのお惣菜は買うようになった。米も少しずつだが、無洗米でも炊くようになった。


 バイトに行けば、大好きな裕司のまかないが食べられるし……下手な外食を食べるよりずっと美味しいのを知れたのだ。


 最初に、入社したてで彼のまかないを食べた時は、オムライスだったが。



「なあ、こもやん」


「だいたい予想出来るぜよ、怜やん」


「……お腹空いた」


「だね。葛木くずきさんが言ってたフードコート行くかい?」


「もち!」



 水分補給も兼ねて、少し離れたところにあるフードコートに手を繋いで行くことにした。

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