第二十二章 小森の場合⑪

第1話 便利と進化

 ふたりの休日。


 まだ、裕司ゆうじの卒業試験に向けての対策は……まず、テーマが決まったことでひと区切りがついている。教官からも『早い』と言われるほどだった。別に裕司だけではないが……後期ギリギリまで悩む生徒もいなくはないらしく、だから早い方だと。


 テーマを変える気もないので、裕司としては……次にどんな料理にするかを、じっくり悩まなくてはいけない。


 一品にするか、コースまでいかなくてもセットメニュー……和風なら定食にするか。


 料理ジャンルが、裕司の場合専攻では定まっていないのであまりこだわりはない。ないがため、余計に悩むが。



「やあやあ! 今日はなんのパンを作るんだい?」



 悩みは、休日だと横に置いておくことにして……れいと一緒に今日はパン作りをする予定だ。


 先日の、春の縁日風イベントで……裕司が射的コーナーで手に入れた、ホットケーキミックスでパンを作るのだ。怜はホットケーキ以外の使い道を知ったため、今日を非常に楽しみにしていたらしい。



「怜やん? カレーパンを作ろうと思っているのだよ」


「な、なんと!? カレーパン!!」


「普通のだから、カレーはキーマカレーぜよ?」


「なんで普通のカレーじゃダメなのかね?」


「専攻じゃないから詳しくないけど……具材がはみ出て、揚げた時にあふれない……だったかな?」


「ふむふむ! 私はまず何から手伝える??」


「野菜をみじん切り。……そこのフードプロセッサーもとい、チョッパー言うので」


「かわいい〜!!」



 調理器具でも、小型でバンクルを引っ張れば……内側の刃が回転して、食材をあっという間にみじん切りにしてくれる。


 サイズによって、出来る量は決まってくるが……大型で置き場所に困るフードプロセッサーよりも、最近は重宝されている調理器具だ。


 怜でも簡単に扱えるし、学校で一年前くらいに取り入れられてから裕司も自分で購入した。フードプロセッサーよりも比較的安価だった理由もある。



「玉ねぎは芯と皮。じゃがいもも皮と芽。にんじんは先端と尾を取って……ざっくりと切ったらこれに入れるのだよ」


「んで……ここ引っ張ればいいの??」


「あっちゅーまにみじん切りが出来るぜよ?」



 手本を見せてやれば……二、三回転させただけで、大雑把ではあるがみじん切りが出来た。声を上げた怜はチョッパーでもう何回転させてから、裕司が指示したように、ボウルへ野菜達を入れていく。容器についた部分はゴムベラで。


 また一段と手際が良くなった怜に、野菜を任せたら。裕司は粗挽きウィンナーを角切りにしていった。



「ひき肉とかじゃなくてウィンナー?」


「ひき肉でもいいけど、食べ応えあるぜよ」


「ほーほー!」



 準備ができたら、先に野菜を炒めたり……ルゥは市販のものを扱う。家庭で出来るものは頼った方がいいのと、流石に裕司でも配合にはチャレンジした事がない。


 機会があればいいと思っているが……学校ではインド料理専門の教官もいないし、バイト先でも山越やまこしは洋食は得意でもスパイス配合は……以前の職場でもしなかったらしい。


 それは別段悪くはないので、裕司もとやかく言わない。それに、市販のルゥも色々改善されているから。一般人には作りやすい便利な調味料だ。



「ん。濃いめに味付けして」



 あとは冷まして……次に肝心のパン生地作りだ。

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