第2話『HMでカレーパン』①



「こもやん、本当にホットケーキミックスでパン作れるの??」


「では、れいやんに問題」


「ほへ?」



 学校の教官ほどではないが、裕司ゆうじも四年生に進級しているから簡単に問題を出すくらいは出来る。家庭教師などのバイト経験はまったくないが。



「ホットケーキミックスには何が入っているぜよ? 小麦粉以外で」


「え、え、え??」


「全部じゃなくていいから、ざっくり」


「ふぇええ??」



 少しいたずらをしてしまっただろうか。


 怜の表情が面白いくらいに、混乱のものになり……どんどん落ちていくようだった。


 ホットケーキを作るようになっても、成分表は特に見ずに、作り方だけを見ているかもしれない。それは別に悪いことではないが。



「正解は……砂糖、ベーキングパウダー。あと油分などの添加物などなど」


「お、おぉぅ?」


「普通のパンみたいに、イースト菌はないだろうけど……膨らむ要素はベーキングパウダーで十分」


「あ」


「これでドーナツも作れるからさ? ざっくり言えば、カレーパンってドーナツの部類に近いし」


「ほへ〜」



 とりあえず、ルゥを冷ましている間に生地を作らねばいけない。今回の生地には、普通のパン作りのように発酵時間がほとんどいらないのだとか。



「うーん。この作り方だと、ルゥにもう少し保冷材ひっつけるか?」


「熱いままじゃダメなのかね?」


「……悲惨な結果になるぜよ?」


「あいあいさー!!」



 本当に、まともに料理をしないとそう言う実践は……時に大変な結果を生み出してしまうのだ。怜に保冷材の方を任せたら、裕司は生地作りに。学校であまりパン製造はしないが……少し前にピザ作りもしたのでまったくの未経験者ではない。


 ふにふに……と、赤ちゃんのほっぺたのようになったら、生地を分けておく。



「怜やん、ルゥどお?」


「ぼちぼち?」



 裕司も確認のために味見をすれば、濃いめに味付けした部分が際立ち、ぬくもりがほんのりある程度。


 もう少し冷やしているうちに、怜と生地を伸ばそうとローテーブルの上をセッティングすることにした。



「今から、ここで生地を伸ばす。……怜やんも少しやってみるかい?」


「……破いちゃダメなんだっけ?」


「ダメだね。美味しくないカレーパンが出来るぜよ?」


「あい!」



 ガス抜きもやり過ぎず、適度な厚さに伸ばすこと。


 その最終工程は裕司が担当すればいいので……まずは、お互いにペチペチと打ち粉をまぶした生地を、綺麗に消毒して打ち粉もたっぷり広げたローテーブルの上で叩いた。



「プニプニしてるー!」


「あんまり打ち粉つけすぎないようにね?」


「りょ!」



 彼女と共同で料理を作るのは、初めてではないのに……やはり楽しいものだった。

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