第4話『ピリ辛なところてん』②

 ところてんサラダ風を、れいに出す当日。


 怜はいつものように、宴会スタッフとしての業務をこなしたところで……地下の食堂にやってきた。


 今日のAセットは、夏野菜カレー。


 Bセットは、天丼。


 どちらも、副菜にはところてんサラダをつけているので大丈夫。



「こもやん! 今日はなにー?」



 疲れているだろうが、怜は元気いっぱいに裕司ゆうじのいる厨房のカウンターへ、チケットを置いた。



「Aは夏野菜カレー、Bは天丼」


「むむむ! どっちも食べたい!!」


「副菜に合わせるなら、天丼がいいぜよ?」


「じゃ、そうする!!」



 チケットを受け取り、すぐにマジックで印を書く。裕司がまかない休憩をもらう時もだが、ホテル内のまかない休憩をスムーズに出来るように、このチケット制が取り入れられたそうだ。


 少なくとも、源二げんじが料理長になる前かららしい。


 源二は今、タバコ休憩なので裕司が提供を任されている。と言うより、怜が来る時間を見計らって出ていったのだ。


 仕事中に私語云々は言われたりする職場もあるそうだが、その会話こそがメニューに繋がるので源二はむしろおしゃべりだ。今は、裕司が怜としゃべりやすいようにしてくれているが。



「ほい、お待たせ」


「やった!!…………えぇ?」


「気づいたかね?」



 ぱっと見は、ところてんよりも春雨に見えなくもないが……怜には副菜に用意したところてんサラダの材料をすぐに見抜いた。


 すると、ぶーっと言う具合に頬を膨らませた。



「……源さんが考えたの??」


「いいや? 俺ぜよ」


「じゃ、なんで」


「怜やんに美味しいところてんを食べてほしいからだよ」


「むむむ」



 とりあえず、天丼の方が冷めないうちに食べて、と伝えたので……怜はトレーを持って行ってから席に向かう。


 大型4Kテレビがあるから、席はあまり向かい席がない。なので、裕司には席に着いた怜の背中しか見えないのだ。


 ちゃんと、いただきますをしてから……怜は、多分天丼から食べたのだろう。出来立て熱々の天ぷらを絶賛していた。


 他のスタッフが来ないので、明日の下ごしらえをしながらも怜の様子を見ていると……怜がところてんを食べたのか、小鉢と箸を持ったままカウンターの前に来たのだ。



「お?」


「こもやん、なにこれ!? めちゃくちゃ美味しい!!」



 何度も首を縦に振るくらい、どうやら気に入ったようだ。



「ふふん。味付けはポン酢とレモン以外に、ラー油ぜよ」


「だからか! 普通の春雨サラダとかよりもピリ辛で食べやすい!!」


「ところてんは??」


「思ったよりツルツル!! これなら……多分、この間の酢醤油も食べれそう」


「じゃあ、怜やんの克服を記念して……すぐじゃないけど、さらに美味いところてんを食べに行こう」


「え? 和菓子屋さん??」


「オカンの実家方面。あっちだと、冬限定のところてんがあるんだぜ」


「おお!!」



 そして、克服した怜には源二に内緒でところてんサラダを少し追加してあげて……見事に完食してくれた怜を見て、裕司は今度の冬がますます楽しみになってきた。


 出来れば、まだ健在している祖父母にも彼女を会わせたかったから。

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