【完結】ホテルグルメはまかないさんから
櫛田こころ
第一章 眞島の場合①
第1話 それは変わり映えのない
変わり映えのない生活で、違う点があるとすれば。
ごくごく普通の女子大生である
怜の場合は、ホテル業務だ。
しかも、受付とかではなく……宴会サービススタッフと言う、もう少し客と接することが多い業務。簡単に言えば、パーティースタッフと言うことだ。
会場の通常設営、パーティーや会議開始からの接客業務、あと片付け後に次の日の設営などなど。
華やかに見えて、意外と肉体労働……制服もそこそこ洒落てはいるけれど、低めのパンプスのせいでふくらはぎもだが太もももぱんぱん。そこだけがデメリットである。
もちろん、メリットもあるので辞めないで頑張っている。その場所に、今向かっているのだ。
…………今日も楽しみにしている夕飯を食べるために。
「あ〜…………疲れる」
今日もまた、ひとつの会場が始まる前に……怜は地下に居た。
仕事ではなく、休憩をするためだ。怜のバイト先のホテルは、いわゆるビジネスホテルのため……街中にあるからか上の階層は客室かパーティー会場などに使われる。
そのため、従業員スペースは必然的に地下へ追いやられてしまうのだ。特殊冷凍庫や冷凍庫もあるから完全に従業員向きにはしていないが。
そんなことよりも、怜はロッカールーム前にある部屋へ足を向ける。中では4Kのテレビが適当な番組を映していて、入って右手にはカウンターがあるのだ。
「こもやーん! 眞島、休憩しに来ましたー!!」
「……おー」
怜がカウンターに、手にしていた小さな紙片を差し出すと……向こう側にいた男性がゆっくりと返事をしてくれた。服装はホテルスタッフの怜とは違い、白一色と少し汚れが目立つ……簡易型のコックスーツを着ていた。
「今日もお腹ぺこぺこ! メニュー決まってる?!」
「落ち着きたまえ、怜やん。ボード見てみ?」
「こもやんから聞きたいのだよ」
互いにあだ名をつけ合い、砕けた物言いで話しているが……実年齢はこもやんこと、
「はいはい。Aセットは津餃子。Bセットはビーフカレー」
「む! むむむ……どちらも甲乙つけがたい品々」
「津餃子はしばらくないぜよ?」
「ならば、Aセット!!」
「了解。ちょっと待ってて」
怜の出したチケットに、マジックペンで『A』と書いてから奥の厨房に向かっていく。
怜は他のスタッフが来ないのを確認してから、カウンターに手をついて眺めることにした。
油の爆ぜる音。
フライパンで何かを炒める音。
ひとり暮らしは一応しているが、広い場所で料理をする立場になったことはない怜には……裕司が作ってくれるのが楽しそうに見えたのだ。
それが……怜達のようなホテルスタッフ向けの『まかない』であっても。
そして、調理音と一緒に香ばしい香りが漂ってきて腹が鳴った……。
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