第3話『お礼の栗と餅の汁粉』



「あっはっは! まさか、本当に実行するとはねぇ?」



 後日、裕司ゆうじは休暇の日に従兄弟である真尋まひろを家に呼んだ。


 外でも別に良かったが、話す内容が内容なのと……れいにもきちんと真尋が家に来るのは伝えてあるので大丈夫だ。呼ぶことを伝えた時は、いくらか慌ててはいたが。



「……やっぱり、お前の入れ知恵か?」


「あら、人聞きの悪い。あたしは、あんたの可愛い可愛い彼女ちゃんの悩みを聞いてあげただけよん?」


「悩み?」


「ゆーちゃんの浮気相手だと思ってたことは、謝ってもらったでしょぉ? そのお詫びに何すればいいかって」


「……詫びって」


「女の悩みはデリケートなのよん?」


「お前は女じゃない……」


「ちょっとは寄っているわよん?」



 その話題を続けると、延々となってしまうからそれはそれまで。


 とりあえず、真尋には礼と称して軽く小突いてから茶請けを出すことにした。


 冬手前と、怜からのリクエストもあったので……栗拾い以降に仕込んだ栗の甘露煮を入れたお汁粉だ。



「ほい」


「んきゃぁ!? お汁粉!? 栗も……焼き餅まで!!」



 たまたまではあったが、保存食の餅もあったのでトースターで焼いたのだ。


 真尋は器を受け取ると、早速と言わんばかりに啜るのだった。そしてすぐに『美味しい!』と声を上げた。



「お粗末さま」


「んもぉ! どんどん腕上げてない? あ〜あ、ほとんど毎日こういうの食べれる怜ちゃんが羨ましいわ〜」


「怜やんは特別」


「でしょうねぇ? ところで、ゆーちゃん」


「ん?」



 真尋が少し真剣な顔をしたので、びっくりしたが。



「怜ちゃんはゆーちゃんを半分名字呼びじゃない? いいのん?」


「…………まあ、今更だし」


「そう言う時も?」


「…………まあ」


「これを機に、名前呼びしてもらったらぁ?」


「はぁ?」


「嬉しくないのん?」



 たしかに、交際を始めて五年近くにはなるが……相変わらず『こもやん』呼びのままだ。不便に思ったことがないわけではないが……彼女から『裕司』と呼ばれるとしたら。


 少し、いや、だいぶ嬉しい。


 一度か二度、身内の前で名前呼びされたことがあったが……あれは嬉しかった。



「…………けど、怜やんのスピードでいいよ」



 無理矢理より、自然がいい。


 いずれは結婚しようと思っている相手だからこそ……急かすよりは、お互いのスピードで歩み寄るのがいいからだ。



「んもぉ。羨ましいくらいラブラブだわねぇ?」


「お前も相手出来ればわかるよ」


「嫌味? まあ、あたしの場合はパートナーだけど……なかなかねぇ?」



 ハンデ、と言うわけではないが……真尋の場合は、特殊も特殊なので仕方がないのである。


 少し冷めたお汁粉を、裕司も食べたが……まずまずの甘さに仕上がっていた。

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