第4話『居酒屋顔負け揚げ出し豆腐』

 さてさて、裕司ゆうじの作ってくれた揚げ出し豆腐だが。


 和食部門ではないものの、まかない処で山越やまこしに鍛えられただけあって……カリッとした豆腐の表面を覆う衣に、湯気がほのかに出ている黄金色の出汁。


 別での副菜は油を使った関係で、野菜の揚げ浸しであった。カロリーが気になる部分もあるが、お互い肉体労働なのでこれくらいたまにはいいだろう。


 酒は控えておくことになったが。れいは明日の朝はモーニングからの出勤なので。



「いただきまーす!!」


「召し上がれ」



 居酒屋などで出る揚げ出し豆腐も、ほとんど出来立てではあるが。


 裕司が作ってくれた、この豆腐料理も実に美味しそうだ。箸ではなく、スプーンですくうと……より一層、カリッとした部分が伝わってきた。軽く息を吹きかけてから口に運び、噛んでみれば。



「あふふ!?」



 やはり、出来立てということもあり……熱い。


 しかし、嫌な熱さではないのだ。カリッとした衣に、少し出汁が染みた部分も美味しくて。


 上に刻み海苔が乗っているのは初めてだが……ちょうど良い香ばしさが舌を休ませてくれるようで。あっという間に、小さな豆腐の塊ひとつを平らげてしまう。



「ん。出汁は既製品の白だしだけど、いい感じ」



 相変わらず、裕司は自分の料理には人一倍厳しかった。



「すっごく、美味しいとも」


「お粗末様。和食部門の多岐たき料理長に知られたら……まだまだとか言われると思うんだよな?」


「料理長とかは厳しいもんね〜?」



 褒めるところは褒めてくれるらしいが、それでも厳しさの方が強いらしい。怜もまったくないわけではないが、葛木くずきはともかく同じキャプテンの紫藤しどうが厳しくしているところはあまり見ないのだ。



「…………とりあえず。一人前手前でも、怜やんを嫁に迎えたいとは思っているぜよ?」


「ほへ?」


「うたた寝で、俺との結婚式でも見たんじゃ? 俺がタキシードって」


「……待合室、での顔合わせ」


「ほー?」



 同じ家だから聞かれても仕様がないものの。


 ほとんど筒抜けなのも、いくらか恥ずかしい。


 その後に食べた揚げ浸しも美味しかったが、少し甘く感じたのだった。


 片付けは一緒にするので、ふたりで並んで洗い物をしている時に……怜は少し裕司の横顔を見た。



(…………こもやんが、旦那さん)



 年の離れた妹がいるからか、子供は大好きらしい。


 怜とそういう関係ではあるから……怜への負担も考えつつ、目一杯子供を甘やかしてくれるだろう。それは、四年くらい付き合いのある怜でもよくわかった。


 貯金もだが、今のこの生活をもう少し続けていくことで……お互いの愛も育くみたい。


 夜の活動は出来ないが、それからふたりで……お風呂には一緒に入ったのだ。

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