第十二章 小森の場合⑥

第1話 誘えない

 テストやレポートが終わった。


 ビジネス系列とは言え、ホテルなども近づいているイベントのために、飾り付けや食事プランなどがどんどん変わってくる。


 そう、『クリスマス』のために。


 そのホテルのひとつ、表舞台でこそ活躍しないが社員やバイトの憩いの空間となっている社員食堂……通称『まかない処』でバイトをしている青年、小森こもり裕司ゆうじは悩みに悩んでいたのだ。



(クリスマス……、れいやんをどう誘おう)



 ひとつ年下で、ホテルの宴会サービススタッフのバイトをしている女子大生。眞島まとう怜と裕司は恋人関係だ。


 付き合って、ほぼ一年経つと言うのに……クリスマスに誘えない理由がいくつかある。


 去年は、クリスマスを過ぎた頃に裕司が交際を申し出たので、怜とは過ごしていない。


 クリスマスと言うイベントは、普通の外食産業以上にホテルでは企業などのパーティープランなどが……宴会に組み込まれているので、サービススタッフの怜は働き詰めだろう。


 それと、裕司はこれまでの彼女達にプレゼントと夜の過ごし方以外で……まともにクリスマスを楽しむ過ごし方をしたことがないのだ。


 今までの中で、一番大事にしたいと思える女性と出会ったのだ。今まで交際してきた彼女達を、全員蔑ろにしたわけではないが……怜を彼女らと一緒にしたくなかった。


 だから……今までとは違い、潤いのある交際をしている怜にも、未だに夜の過ごし方をしていない。専門学校の同級生に言ったら、問答無用で引っ叩かれたが……裕司也に大事にしているのは理解してもらえた。


 だからこそ、今回のクリスマス……もしくは、その後の大晦日を一緒に過ごしたいのだ。ちなみに、去年末は怜が実家に帰る予定があったので一緒ではなかった。



「ん〜〜……」



 今日は怜のシフトの都合と、裕司のオフの日だったため……裕司の部屋に怜はいない。


 怜のバイトが終わってから……こちらに来る予定らしいが、迎えには行こうと思っていた。治安が悪いわけではないが、ホテルの近辺はナンパやキャッチと言った柄の悪い男共が最近たむろしていると聞く。


 夏にあったプールサイドのように、裕司の大事な彼女に気安く声をかけられたくない。裕司が行けなかった時に、どうやら何度か遭遇したらしいが。



『殴りたかったけど、我慢してきっぱり断ったとも!!』



 と教えて、誕生日に贈ったペアリングを見せつけたらしい。それでも、全員が全員に有効ではないようだから裕司としては心配だった。



「……だったら、さっさと自分のにしたくないと言えば嘘になるけど」



 そう言った話題がないのと、怜が今のままでも楽しそうだったから……裕司とまだ望んでいないのかと臆病な考えに至ってしまう。


 去年はまだ未成年だったが、今は立派な成人した女性だ。あと二ヶ月もないうちに、成人式で綺麗な振袖姿も見れるだろう。


 その式でも、ほとんど同窓会の場で……怜の綺麗さを見せつけて寄って来る男共がいないと限らない。


 やはり、怜と自分のたしかな繋がりを……裕司もしっかりと心以外に体にも刻みたかった。



「ひょっとしたら……怜やんも不安かもしれないし」



 一度だけ、見てしまったのだ。


 かぼちゃパーティーをした時に、ふと淋しそうな笑顔になったのを。


 裕司はあれを見てから……怜と繋がりを深めたいと少しずつ思うようになったのだ。

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