第3話『二十歳の誕生日会料理』①


「こーも、やん!」



 れいは飾りつけが終わったのか覗きに来た。


 まだ油鍋を温めているだけだからか、後ろからゆっくりと抱きついて来た。そこも可愛らしいと、ついつい口の端が緩んでしまう。



「待ってて、今揚げるから」


「何揚げるか聞いていーい?」


「そこは楽しみに」


「食べながら説明もいいけど、冷めたのはなー?」


「うーん」



 それもそうなので、隣に立つようにお願いしてから……スタンバイさせていた揚げ物達を紹介することにした。



「おお! これは私でもわかるぞ!! 唐揚げだね!!」



 怜がはしゃいだのは、二度揚げ用にとボウルに鶏肉を入れていたのですぐにわかったようだ。ヘルシーな胸肉ではなく、こってりめに仕上がるもも肉で。怜は鶏皮も大好きだから取り除いてもいない。



「で、こっちも見ての通り春巻き」


「やったー!!」



 具材までは内緒にしたいから、それ以上は言わない。


 最後は、コロッケにも見える球体のようなものだ。



「これはねー、ライスップリ……簡単に言うと、ライスコロッケだよ」


「ご飯入りのコロッケ??」


「白飯じゃなくて、ケチャップライスにしてるぜよ?」


「ほほーぅ!! 絶対美味しそうな予感!!」



 結局、少し冷めても美味しい唐揚げから先に揚げ……怜がつまみ食いをしないように注意してから、どんどん揚げていく。


 出来上がっていくにつれ、室内が油の臭いで満たされるが今日くらいいいだろう。


 全部揚げ終わってから、裕司ゆうじが冷蔵庫からケーキ以外の料理を出すことにした。



「はい、並べていくよ?」



 ドレッシングから作ったシーザーサラダ。


 明太子とサワークリームのディップ。


 ディップに合わせたバケットももちろん準備している。あとは、春巻きかぶりだが生春巻きも。



「うひょー!! ビッフェを出来立てで食べられるみたい!!」



 そう言えば、怜の仕事だと立食パーティーなどが多いので残った料理をスタッフ同士で食べたりするとも言っていた。


 ホテルの料理人達のように、素晴らしい技術を裕司はまだまだ勉強中だが……可愛いらしい彼女に喜んでもらえるのなら良かったと思う。



「俺なんかはまだまだだけど……向こうも持ってくるから」


「わーい!! たくさんこもやんのご飯食べれる!! 独り占めだーい!!」


「大袈裟だよ」



 それだけ、裕司の作る料理を褒めてくれるのはとても嬉しい。まだ口にしていないのにこのはしゃぎ様だ。すぐに食べさせてあげようと、少し急ぎめに器に盛り付けたら……うずうずしている怜のいるテーブルに置いてあげた。



「おお!」



 ケーキ以外の料理を置けば、怜はよだれを垂らすくらい顔を緩ませていく。とても可愛らしいので、裕司はこれまた買っておいたシャンパンをグラスに注いであげた。



「じゃ、改めて。誕生日おめでとう、怜やん」


「ありがとう!! お酒解禁!!」



 ホテルにあるような細長いフルートグラスではないが……気取らないカップルの誕生日会なので、軽くグラス同士をかち合わせた。


 やっと二十歳になった怜に、アルコール度数がそこそこ高いからゆっくり飲むように伝えると……ひと口で酔うことはなかったが、アルコール独特の衝撃に少し驚いていた。



「さ、空きっ腹に酒飲みまくると酔うから食べて」


「うん! いっただきまーす!!」



 今日くらいは、サラダ優先も忘れて……怜は出来立ての揚げ物に箸を伸ばしていった。

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