第八章 小森の場合④

第1話 味覚狩りから得たヒント

 先日、自分から提案した味覚狩りだったが。


 裕司ゆうじが考えていたよりも、れいはとても喜んでいた。もともと、アウトドアとまで行かないがインディア派でもない彼女なので、屋外のデートには積極的に賛成してくれている。


 味覚狩りで、体験後にプランの中で購入出来た栗だったが……怜とのモンブランで堪能もしたけれど、せっかくだからとホテルのまかない処に持って行き、源二げんじにもお裾分けをした。



「お? いいのか、こんなにも」


「俺や怜やんだけだと食い切れないので」


「んじゃ有り難く。しっかし、あれだな?」


「?」


「お前。眞島まとうちゃんが彼女になってから、良い表情するようになったよ」


「……ども」



 今まで、彼女がいなかったわけじゃない。高校時代もいたりしたし、なんなら怜と付き合う前にも……すぐに振られたが一応はいたのだ。


 なのに、口調遊びでふざけ合うくらい……怜とは今までの彼女達と比べられないほど、大事にしたいと思っている。


 だから……キス以上のことが先に進めないのだ。怜にもこれまで彼氏は居たらしいが、彼らと比べられるのではないかと臆病になる。怜はそんなことをしない女の子だと、何と無くわかってはいるが男としては仕様がない。


 もう付き合いを始めて一年近く経つのに、大事にしたい相手ほどここまで臆病になる自分に、裕司は自分で呆れた。



「けど……栗かあ? 仕入れには値が張るが……さつまいもなら問題なさそうだな?」


「? 何か??」


「煮物もいいが、たまにはデザート作るのも良いだろ? 小森こもりも見たくねぇか? 眞島ちゃんがハムスターみてぇにデザート頬張るの」


「それは……」



 源二の提案ではあるが、もの凄く見たかった。


 怜の食べる様子は……まかない処だと席の配置の関係で、こちらに背を向ける時が多い。しかし、その状態でも……背中が語ると言うのか、怜が美味しそうに食べているのがよくわかるのだ。


 そうとなれば、作りたいと裕司は強く頷いた。



「ハチミツレモン煮も良いが、デザートだとあれだなあ?」


「……やっぱり、スイートポテトですかね?」


「焼き芋は時間置くと、芋の種類にもよるが……皮に水分溜まるしなあ?」


「スイートポテトだったら、俺昨日学校で作りましたけど」


「んじゃ、ただのスイートポテトじゃないのにしようや?」


「普通じゃない??」


「持ちやすいように、ミニタルト作ってフィリングがわりに入れる……どうだ?」


「それ、絶対怜やんが好きな奴です」



 今年克服したばかりの、ところてん以外は彼女は何だって好きだが……ケーキはスポンジよりもタルト派らしい。


 この前のモンブランについては、タルトよりも栗の甘さを意識してスポンジの方にしたのだ。



「フィリング部分は俺が作る。小森にゃ、タルト生地頼んだ」


「在庫の粉とかバター使って良いんですか?」


「おう。ちょうど使い切れていなかったから……掃除兼ねて、良いかもな?」


「源さん、言い方」


「ま、いいだろ?」



 なんにせよ、元有名レストラン出身の料理人の技術を見れるのは嬉しかった。

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