第2話 ふたりの栗拾い②

 栗拾いの実演は、装備を渡された時に職員が実演してくれた。



「栗は、成っている上のものよりも……地面に落ちた方が熟成しています。自然に任せて、美味しいものを見分けるようにしてくれるからです。しかし、イガはかなりとがっていますので……たとえばこんな風に」



 空っぽのイガを長靴の間に置き、両側からイガを押さえて……トングのような『火バサミ』と言う道具で、栗が入っている部分を掴んだ。



「……その実をバケツに?」


「はい。制限時間の二時間以内にお好きなだけ拾ってください。イガは入れなくて結構です」


「わかりました」



 と、説明を受けてから、れい裕司ゆうじは指定されたフィールドにいた。地面には熟したイガつきの栗がゴロゴロと。木にも、これまたたくさんの栗が実っていた。


 職員からは、突然落ちてくることもあるので気をつけてほしいとも注意を受けた。なので、装備には雨ガッパも支給されているのだ。



「やーやー、持ち帰れずともこれ全部拾っていいのだね!?」


「全部は難しいぜよ……」


「やるだけやるのだよ!」


「何度も言うけど、怪我だけはせんでね?」


「……あい」



 少し昔だが、なにもないホテルの廊下で盛大に転んだことがある。裕司の目の前だったので、彼は大層驚いて……怜を抱えて医務室に駆け込んだのはよく覚えている。


 幸いと言っていいか、怜の怪我はストッキングが多少伝線したのと大あざが出来る程度の打撲で済んだ。


 あの時期くらいに、裕司と付き合うようになった。ほっとけない、とくしゃりと笑う顔が忘れられない。今は苦笑いだけれど、心配してくれる気持ちは同じなはず。



「まずはイガ踏んで」


「開いて」


「火バサミで掴んで」


「ゲット!! おお、大きい!!」



 怜の手にひらは言い過ぎかもしれないが、裕司が手の中に入れてくれると……コロンと転がるフォルムが大変可愛らしい。


 これがモンブランになると思うと、大変感慨深い。


 少し眺めていたが、時間は有限なので怜もだが裕司も黙々と栗拾いをしていく。だいたい一時間くらい拾い続けると……お互いのバケツの半分以上は拾えたのだった。



「随分拾ったのに、まだ半分か……」


「まだまだ拾えるー!」


「怜やん、水分補給せんと」


「ほいほい」



 事前に、裕司が用意してくれていたスポーツドリンクでひと息吐くことにした。結構重労働をしていたので、ふたりとも一気に半分は飲んでしまうほどだった。



「あ〜……生き返る」



 一個違いとは言え、普段からそこまで運動をしないからか……裕司は少し疲れていたようだ。



「帰りの車あるし、こもやん休む?」


「ちょっとだけー」



 この会場が市外なので、裕司には高速を走ってもらった。普段はバイト先へはお互い電車を使うので、裕司の免許は半分ペーパードライバー。学校についても、電車やバスで行けるようなので車を使う機会が少ない。


 だから、少し疲れたのだろう。


 怜の方は、大学で運動系のサークルは所属していないが……普段のバイト自体がほぼほぼ運動と変わりない。


 立ち仕事もだが、少し動きにくい靴でテキパキ動くのもあるけれど……ある意味、裕司の何倍も重い荷物を運んだり設置したりしている。


 だから、裕司よりも怜の方がタフなのは仕方がないかもしれない。


 それでも、怜とて何回か水分補給をしながら……終了間近には、裕司のもバケツ満杯になったのだ。



「大漁、大漁!!」


「元気だのぉ? そろそろ昼飯にしようや」


「食事処もあるって、案内にあったねー?」



 食事もだが、決まった時間に販売していた焼き栗にふたりは舌鼓を打った。

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