第3話『Aセット、津餃子』②

 カリッと、少しもっちりした皮の中から……ぎっしりと、しかし、意外にもあっさりめの味付けの餡と出会えた。


 回鍋肉に合わせてか、それか逆か。


 噛めば噛むほど、ジャンキーな油に加えて餃子本来の味付けが口の中で踊って……これはご飯だとまた白米に手を伸ばす。


 さらに、自動のだけど無料で飲める煎茶もひと口。


 変に渋い味わいだが、口の中をリフレッシュしてくれるようだ。これは本当に美味しい。


 ひとつ違いとは言え、普段から料理をしている裕司ゆうじれいはいつも驚きと感動をもらっている。



「おいひい……」



 あとで歯磨きは必須だが、今は味わって食べよう。


 取って置いた回鍋肉もだが、津餃子もしっかり噛んで味わって……けれど、ゆっくり食べていると歯磨きする時間がなくなるので、少し早めに食べていく。


 今日もお残し無し、大満足のまかないもとい、夕飯だった。


 バイトを選んだ理由は、時給の高さもだが……このまかないがあったからだ。ほとんどローテーションで、津餃子のような変わり種がある以外は普通のメニューではあるけれど、裕司が入社してから変わったらしい。


 怜が入社したのは彼の後なので、どう変わったかはよく知らないが。美味しいまかないが食べられるのなら、怜はなんだって良い。



「ごちそうさま〜!! こもやん、トレー置いておくね〜?」


「うん、あんがと」



 今彼は、別のスタッフのまかないを作っていた。津餃子なのか、油鍋がまた爆ぜていて……フライパンでは回鍋肉を作っているようだ。


 また食べたくなるが、ここは我慢だと堪えてから……歯磨きをするのにロッカールームに行った。



「あ、マトーさん。おはようございます」



 ロッカーに行くと、研修生である中国ハーフのワン苺鈴メイリンがちょうど着替えているところだった。



「おはよー! 今日のまかないもめっちゃ美味しいよ!!」


「マカナイ、なんでシタか?」



 苺鈴はハーフであっても、出身地が中国なので日本語のヒヤリングは出来るが話すのはまだまだ不得手らしい。


 彼女が着替え終わってから、怜は今日のメニューを教えることにした。



「餃子はわかるでしょう?」


「はい」


「あれを拳よりも、おっきくして……油で揚げたやつが二個!! それがAセットだったね。Bセットはビーフカレーだけど」


「!! ギョーザ、揚げた……」


「三重県の津餃子ってやつなんだよ。多分、こもやんが向こうの人だから、メニューに入ったかも」


「コモリさんのご飯、美味しいデス」


「ニンニクとか入ってなかったけど……カレーも匂うから歯磨き忘れないでね?」


「はい」



 あえて、苺鈴に敬語を使わないのは、彼女の語学力向上のためだ。仕事はともかく、普段の言葉使いは勉強中だからと本人に言われたからである。


 歳も怜の方が年下なのに、苺鈴はそうしてくれとお願いしてきたのだ。



「……よし」



 苺鈴が行ってから、しっかり歯磨き。


 ブレスケア用のタブレットも噛んだので、また仕事に戻ろうとロッカーの扉を閉めた。

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