第46話 顔合わせは波乱の予感

==ヴァルトール帝国・郊外ブリスブルク・冒険者ギルド支部==



昨夜はアノンの宣言通りに美少女二人が僕を挟んでいたもので、当然ぐっすりと眠りにつくなんてことが出来るわけもなかった。


ーーあの男バーグから教わったことも気になってなおのこと。


やっぱりあれは聖女の力、つまり“地母神の寵愛”なんだろう。

メリーが魔力を使わず風を起こすのと同じ、理論上僕は獄雷撃と呼んでいるあれをリスクなしで引き出すことができる。


ーーけど、魔法と寵愛が頭の中でごちゃ混ぜになっていて上手く引き出せていない。


それらをより深くイメージ出来れば、僕が“キマイラを倒した時の力”も使えるようになるのだろうか。



「ニア聞いてた?」


「あっ……ごめんごめん、ちょっと考え事してて」


「むぅ朝からずっと上の空」



メリーが頬をふくらませている。可愛い。

ブレイザー公爵邸での訓練と昼食を済ませた僕達は冒険者ギルドに来ていた。これから遠征大隊の顔合わせ、僕達の他には三つのパーティとギルド職員さんが同行するようだ。


ーーそのうち一つはバーグひきいるバロンくんのパーティだとして、あと二つは初対面はつたいめんということになる。



「それで何の話しだっけ?」


「今日はデートの続きする」


「あぁデートねデート……良いねどこにいこうか?」


「美味しいもの食べたい」


「じゃあまた露店街へ行ってみようか、昨日もらったお金もあるし豪勢にいこう!」


「うん楽しみ」



ギルド長ソフィアさんの話を聞いてから、メリーと少しだけぎこちない関係が続いていたーーーーというより僕が一方的に意識してしまって以前のように喋れなくなっていたのだ。


ーーなんとかしなきゃいけない。そう思えば思うほど余計に意識してしまう。彼女が僕に見ている幻影を。



「メリー! ニアくん! こっちこっち!」



そうこうしているうちに、ニスカさんの声が聞こえて僕とメリーは仲間達との合流を果たす。

そこには既に三つのパーティが集結しており、それぞれのリーダーが握手を交わしているのが見えた。


ーーローさんとバーグ、それからもう一人は……



「おいおいまたガキかよ! 今回は当たりだと思ったのになァ」



金髪をツンツンに逆立てた男で、動物の毛皮やら指輪やらピアスやらをジャラジャラと身につけている。それはもう一目でガラが悪いと分かる風貌だ。

彼は僕達にも聞こえるようにわざとらしく大声で悪態をついた。



「冒険者ギルドはいつから託児所になったんだァ? おい竜滅の英雄バルムンク! 本当にやる気あんのかァ?」


「ふっ……彼らは強いよフロウ殿、きっと君の見たいものが見られる。楽しみにしているといい」



フロウと呼ばれた男はバーグになだめられてもまだ納得がいかない様子で、ソファにどかっと座り不機嫌をそのまま身体で示す。

彼の両隣りには二人の美女がピッタリとくっつき、その後ろに女騎士風の二人組が控えていた。落ち着き払った彼らの様子を見れば、その実力の高さが垣間見かいまみえる。


ーー態度は悪いけど、きっとこのフロウって人もかなり強いんだろうな。


バーグとフロウ。どちらも出来るだけ関わりたくないタイプだ、出発前だというのに先が思いやられる。



「はぁ……仕方ない俺から紹介しよう」



そう口火を切ったのはローさんだ。気まずい雰囲気を察したニスカさんがまたしても彼をけしかけたのだろう。



「彼はフロウ・バルセント、Bランク冒険者でまたの名を不滅ヴァルダー。彼のパーティにはBランクがさらに二人、Cランクが二人いる」



ーーこっちだってメリーとローさんがBランク、僕とニスカさんとアルフさんはCランク、ウェルグさんリヨンさんはDランクで戦力としてはそこまで差はない。



「遅れて来た二人はメリーとニア、メリーはBランクでニアは最近Cランクになったところだ」



一応ローさんは僕らのことも紹介してくれたが、もちろんフロウからの反応はない。ただ、その声を聞きつけた“何者か”が背後から迫る。



「ニア…………黒い髪の少年。うん……間違いない」



なんだか嫌な予感がして後ろを振り返る僕。

その目に映ったのは少女が一人、少年が一人、男が二人の計四人組だ。



「はいはいはーい! おっ待たせしましたー! 私達が最後かな、最後だよね! やっぱり主役は遅れて登場するもんでしょ? アタシはリップ・ラトニー! ニアくん、キミに会いに来たよ!」



底抜けに明るい女性の声。彼女もフロウとは違った意味で態度がデカい。そして引き締まった細長い手足の割に何がとは言わないが“あれ”もデカい。どデカい。

青緑色の髪を両側に編み込み団子状にしていて、顔も幼く見えるが目鼻立ちは整っているのでそれも目を引く。特に男性達の。


ーー僕に会いに来た? 誰だろうこの子。こんなインパクトのある女の子なら流石に一度会ったら忘れないと思うけど……



「ニア知り合い?」


「いや……知らない人だと思う」


「まじか」


「まじ」



僕の口調を真似ておどけるメリーに癒されつつ、今一度リップと名乗った美少女を観察するが脳内の検索結果には引っかからない。



「いやーんそんなに見つめちゃだめだめー! アタシには心に決めた人がいるんだから!」


「冗談はその辺にしておきなよリップ。いやはや遅くなってすみません皆さん、私はセイ・ジグレイア。この町ではBランク冒険者暴竜使いファフニールと言った方がいいでしょうか」


「ほぅ……またガキの集団かと思えばちゃんと名の知れてるやつもいるじゃねェか。後ろのヤツもしってるぜェ……最近見かけなかったが確かBランクの狂戦士ベルセルクラウガ・ゼレフだ」



少し上機嫌になったフロウが饒舌じょうぜつに語る。

金髪に垂れ目で良い人そうなセイとは対照的にラウガは表情一つ変えず無言を貫く。そして何故かラウガは僕の方を見ている。無表情で見つめられている、怖い。さらにはもう一人の少年も僕を見て微笑んでいる、超怖い。


ーー僕に会いに来たって言ってたし、何か彼らに恨みでも買っただろうか。



「皆さん揃ったようですね! では遠征大隊二日前、第一回ミーティングを始めます!」



リヨンさんを除く全員が集結したとのことで、受付のお姉さんが僕らをまとめるべく指揮をとる。



「一つ目のパーティがAランク冒険者バーグ・アムレード様、Dランク冒険者バロン・ブレイザー様、Dランク冒険者アン・コルティ様、Eランク冒険者プウナ・エンヴァス様、Eランク冒険者ミラーナ・クール様の以上、五名」



相変わらずの滑舌の良さで一息で言い切るお姉さん。流石だ。

そしてバロン君の方を見ると目が合ってまた睨まれた、悲しい。



「二つ目のパーティがBランク冒険者フロウ・バルセント様、Bランク冒険者ソルル・グレータ様、Bランク冒険者マニニ・グレータ様、Cランク冒険者マリ・チェロエッタ様、Cランク冒険者リカ・ブエナス様の以上、五名」



名前を呼ばれたフロウが得意げな顔をしている。確かにこの中では総合力において一番のパーティだろう。



「三つ目のパーティがBランク冒険者ヴァリアン・ロー様、Bランク冒険者メリー・ロゼット様、Cランク冒険者ニスカ・モニーク様、Cランク冒険者アルフレッド・スティンガー様、Cランク冒険者ニア・グレイス様、Dランク冒険者ウェルグ・ドーベル様、Dランク冒険者リヨン・サルヴァス様の以上、七名」



僕達の名前が呼ばれれば残りはあと一つ。



「四つ目のパーティがBランク冒険者セイ・ジグレイア様、Bランク冒険者ラウガ・ゼレフ様、Fランク冒険者リップ・ラトニー様、Fランク冒険者ツァーリ・エルマン様の以上、四名」


「あァ? Fランクだァ?」



上機嫌だったフロウが一転して荒々しく言い放つ。


ーー確かにFランクと言えば登録したての冒険者だ。二人とも自信はありそうに見えるけど。



「安心していーよ、アタシもツーくんもおじさんより強いから」


「ざけんなテメェ……殺す!」


「やれるもんならやってみなよーほらほらー」


「ふっ……少し興味はあるがそこまでにしたまえ二人とも。フロウ殿、ここは私の顔に免じて抑えてくれ」



険悪な雰囲気をいち早く察したバーグが仲裁に入った。こうしてみると本当に普通の良い人に見えてしまうから不思議だ。僕もきっとメリーもまだ彼のことは信用しきれていないけれど。



「くそ……わぁーったよ」


「リップもちゃんと謝りなさい」


「ごめーんちゃい!」



反省を促したはずがさらに関係を悪化させていそうで深くため息をつく保護者セイ。彼はローさんと気が合いそうだな。僕に会いに来たっていう理由も聞きたいしあとで話しかけてみよう。


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