第17話 僕が拾ったのはこの黒い杖です

==針林ダンジョン・八合目==



僕達は情報を交換しつつ、ダンジョンの奥へ急ぎ向かった。

なんでも彼女は仲間と分かれたあと二体のキングエイプに追われていたらしい。


ーーそれも武器を奪われた状態で。



「ニア君、本当にありがとう! 私はニスカ・モニーク。あの魔法と地響きでキングエイプ達がそっちに気を取られたおかげで助かった。それに武器まで取り返してくれて」



ーー地響き、なるほど瀕死の一体目が暴れ出した時のあれか。


続いて現れた二体目、三体目が彼女を追っていたキングエイプ達だったというわけだ。



「いえ、槍も双剣も本当に偶然で…………ともかく助け舟になったのなら何よりです」


「うん、すごく助かっちゃった! これさえあればニスカお姉さんだって百人力なんだからっ!」



結論から言えば、僕がコボルトから勝ち得た槍は彼女の仲間のものだったようで今は既にニスカさんに渡してある。


ーー戦利品のように思えていたから少しだけ物寂しいけど、荷物の問題も片付いたので良しとしよう。



「あと、この黒い杖は本当に貰っちゃっていいんでしょうか……?」


「それは少なくとも私達のものじゃないわ。ダンジョンに放置された武器は自然と魔力を帯びる。だから昔から冒険者ギルドは定期的に不要な武器をダンジョンに置きにくるの、多分それじゃないかしら」


「多分……って」


「も……持ち主が現れたら…………その時考えましょ!」



ーー何ともまぁ無責任な……ニスカさんが明るい調子に戻ってくれて良かったと思うべきか。


僕も彼女につられて少しだけ気が楽になった。


ーー黒い杖、どんな力が宿っているのか少し試してみよう。


杖は魔法の威力を高めるものや効果範囲を拡げるものなど、魔法が発動してからの“結果”に作用するものがほとんどだ。


ーーさて、この杖はどんな効果があるのやら。



「ニア君……もうすぐ着くよっ!」



ニスカさんの言葉に「いよいよか……」と息を飲んだ。

すると彼女はあくまでも明るい調子を崩さずに言った。



「大丈夫……いざという時は私が命がけで君を守るからっ!」


「いや! それは全然大丈夫じゃないですからっ……!」



ーー怖くないと言えば嘘になる。

それでも自分から“関わる”と決めた。


多少なりとも見知った人達をここで助けなかったらきっと一生後悔する。

関わると決めた以上は僕だって逃げ帰るわけにはいかない。


ーーそれに、これはチャンスでもある。


あの魔法使いの男を、空色の髪の美少女メリーを見返すための。


ーーきっと出来る……強くなった今の僕なら……!



「こうなったからには助けますよ……必ず!」



そうこうしているうちに目的地へ辿たどり着くーーーーかと思われたその時、複数のモンスターが僕達の前に立ち塞がった。



「ーーーーーーーーーー!」



僕達という獲物を発見して興奮し始めたのは数え切れないほどの“オーク”だ。

二足歩行する豚のモンスターで、皮膚が固く、生半可な剣を通さないほどだと言われている。



「ここはアタシがっ……!」


「いいや立ち止まらないで!」



僕は走りながら前方のオーク達へ集中力を傾ける。

黒い杖どころか、杖を使った魔法はぶっつけ本番に近い。


ーーだけど不思議と上手くいく気がするんだ。


何しろ心の声が「行け」と言っている。



「いきます! 獄雷撃っ!」



掛け声に合わせ、いつものように深紅の魔法陣が形成される。

ただ、それは地面ではなくーー敵に向けた杖の先端に“固定”されていた。


そして、魔法陣から射出される赤黒い閃光は“前方”の敵を次々に焼き払っていく。


ーー要するに“ビーム”である。め……めちゃくちゃかっこいい! よし……これは獄雷閃ごくらいせんと名付けよう!


その破壊光線は目に見えるオークの群れを殲滅せんめつし、ついでに木々のアーチをあしらえた通り道を完成させた。



「うぎゃああああああっ……何これ! 本当に一体何なのその魔法!」



ーーな……なるほど、すごいな……これ。


使った自分自身でも驚きを隠せない。

この黒い杖は魔法陣を杖先に固定するもののようだ。


ーーこれは控えめに言って“使える”。


いや、僕のための杖と言っても過言ではないかもしれない。


ーーそれに気のせいじゃなければ獄雷撃の性能自体も多少変わってる? あとで何度か試そう!



「これはその…………“ただの雷撃”…………のはずなんですけどね……プロの冒険者となればこれくらいは普通だったりするのでは?」


「雷撃⁉︎ これが⁉︎ こんなのが普通なわけないでしょっ!」


「で……ですよねー」



ーーなるほど……冒険者と言えど、獄雷撃は普通ではなかったようだ。やっぱり人目につくところで多用は控えないといけないなぁ。



「それに“詠唱”も省略してたよねっ?」


「はい、僕の周りの人達はみんなやっていましたけど……」


「はぁ……? それどこの帝国魔法使団よっ!」



ーーああ……確かに皇帝直属の魔法使団に習ってたんでした……僕。



「もう……あとで詳しく聞かせてもらうからねっ!」


「はい、キマイラを倒したあとでいくらでも!」



僕達は不安や焦りを心の奥底へ押し込むように、出来るだけおどけた調子で応える。ニスカさんも内心は穏やかではないはず。


ーーきっと僕を怖がらせないようにしているのだ。


そして、その時が来る。



「みんな……どうか無事でいてっ……!」


「こ……これは」



辿たどり着いた先は針林しんりんダンジョンの中心部ーーーーのはず。


しかし目の前には、“何も無かった”。


正しく表現するならばーー目の前には見渡す限りの草原、広大な“丘陵地帯きゅうりょうちたい”が広がっていた。


簡単に言えば背の低い草しか生えていない丘だ。


ーー驚いた、もっと鬱蒼うっそうとした樹海のような場所をイメージしていたのだけど。



「ここが針林ダンジョンの中心……なのか」


「この丘の向こう側ね、見たらすっごいびっくりすると思うよっ!」


「丘の……向こう側?」


「うん、今度お姉さん達が連れて行ってあげるからっ!」


「ええ! ぜひお願いします!」



ーー新しい冒険の気配! そのためにも……まずは!



「僕がキマイラを倒す!」


「みんなっ……!」



ーー打倒、幻獣キマイラ。

および、その他ハイコボルト、ハイオーク多数。


僕の冒険はまだまだ続きそうだ。


かくして、キマイラ討伐戦のゴングが鳴り響く。

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