第16話 猿の逆襲
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ヤツは
ーーその執念恐るべし……僕も
僕は息を飲んで、決着の一撃を放つ。
「これで最後だ! 獄雷げ……っ!」
最後の詠唱を終えるまさにその直前ーー嫌な予感が全身を伝う。
背後からの急襲、複数のテールエイプ達が洞窟からこちらの様子を
彼らは魔導書を持つ僕の左手を狙い攻撃を始めた。
「投石……!」
背後からの投石にいち早く気づいた僕は身をかがめて回避行動を取る。
大した攻撃ではないが、魔法の詠唱には多大なる影響を与えた。
ーーその間にもキングエイプは少しずつ距離を縮めている。
そのままテールエイプの巣を背にしたままでは戦えない。
僕は目の前に突き立てた槍をキングエイプに投げつけ、最高速度で背後に回り込んだ。
ーー正確には回り込もうとした。
しかし、キングエイプは槍を避けることもせずこちらへ一心不乱に攻撃を仕掛けて来たのだ。
「ーーーーッ」
「やばいっ……」
地面ごと払い
もし直撃すれば一撃で形勢逆転、待つのは敗北のみ。
ーー今から後ろへ回避しても間に合わない……行くべき道は一つ!
「前だぁああああああああああ!」
僕は決死の覚悟でキングエイプの
リーチの長い腕がかえって
この位置なら投石も当たらない。
キングエイプは腕を叩きつけるために腕を振り上げている。
僕は槍が刺さった胴体を狙って魔法の詠唱を開始。
「
火球はキングエイプの
ーーよし、効いてる……そのままたたみかけるぞ!
「炎撃……炎撃……炎撃……炎撃!」
炎は着実に敵モンスターの巨体を内外から焼き尽くした。
しかし、火だるまになりながらもなお倒れない。
ーー決定的な一撃が必要だ。
僕は突き立てた槍に向かって
反撃はない、キングエイプはそのまま仰向けに倒れ込む。
それでもなお、再び立ちあがろうとしている。
僕は再び距離をとって集中力を高めた。
ーー確実にとどめを差す!
「
冷静に、安らかに、丁重に。
僕は決死の戦いを繰り広げた相手を
「ーーーーッ」
キングエイプの
その魔力が注がれる感覚に勝利の喜びを重ねて実感する。
ーー敵ながら恐るべき執念だった。
幸いなことにそれ以上の増援は無し。
残されたテールエイプは降参ーーとばかりに、隠した武器を洞窟から放り投げて逃走した。
「あった……僕の剣! それと黒い杖に、二刀一対の真っ赤な双剣か…………さすがに持ちきれないなぁ」
ーー持ち主が居るんだろうから冒険者ギルドまで持ち帰ってあげたいけど……
ハイコボルトからドロップした長槍と合わせると相当な荷物だ。
「流石に全部は持っていけないなぁ……」
「ね……ねぇ! 今の魔法…………君がやったの……?」
ーー聞き覚えのある女性の声、小さな子供に話しかけるような穏やかで優しい声色だ。
突然の来訪者に僕は慌てて振り返る。
そこにいたのは昼間に会った冒険者パーティの赤い髪の女性。
「あ……あなたはあの時の」
「助けて! ローが……仲間達が大変なのっ……!」
必死さに長い赤髪が跳ねる。彼女はもともと露出の多い軽装だったが、その全身に傷を負いさらに危うい服装になっていた。
目のやり場に困ったが、そんなことを考えていられる状況ではないということくらい僕にも分かる。
「お……落ち着いてください。何があったんです?」
「突然見たこともないモンスターに襲われて……! ローは“キマイラ”だって言ってた」
「キ……キマイラ!」
キマイラは
十メートルを超える巨体を持ち、屈強な四つ脚と背中の翼で素早い攻撃を仕掛けて来るという。その圧倒的な戦闘力に加え、火や雷の魔法まで使えるとも言われている。
主に針林ダンジョンの“最深部”でのみ出現が確認されているモンスターだ。
ーーけれど,まだ最深部まではかなり距離があるはず……!
「皆さんはダンジョンの深部まで行っているのでしょうか……今から行って間に合うかどうか……」
「いいえ、すぐ近くなのよ! いつもはハイコボルト、ハイオーク、キングエイプあたりしか出ないはずこの場所で突然っ……!」
ーーこのすぐ近く……!
「さっきの雷撃魔法、見てたわ! 凄かった……! 昼間はバカにするようなこと言ってごめんなさい……あの魔法ならキマイラだって倒せるかもしれない……!」
話を聞く限り、事態は急を有する。
しかし即決するにはいささか話が大き過ぎる。
ダンジョン最深部のモンスター、キマイラ。
今日冒険を始めたばかりの僕が対峙していい相手ではないだろう。
それでも、助けを求めている人を置き去りにしていくことは出来そうにない。
加えて、心の奥から湧き上がる好奇心を止めることも出来そうにない。
ーー幻獣と呼ばれるような相手にも“獄雷撃が通用するのか”どうか。
「助けて……お礼は何でもするからっ……!」
何度も必死に
そんな彼女を放って帰れば男が
「分かりました……案内してください……!」
僕の心には不安が半分、好奇心がもう半分。
それでも刻一刻と好奇心が不安を塗りつぶしていくのを感じる。
ーーついでに帰り道も案内してもらおう、そうしよう。
帰路を探し始めてから小一時間ほど。
あと数時間もしないうちに日が暮れてしまうだろう。
僕の初めての冒険は思いもよらぬ方向へ向かうのだった。
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