第27話 二階級特進

==ヴァルトール帝国・郊外ブリスブルク・冒険者ギルド支部==



「ニア・グレイス様、あなたを“Eランク冒険者”として登録させて頂きます」


「は……はい、ありがとうございます!」



どうやら獄雷撃ごくらいげきによる加点はそう大きくなかったようだ。

さっきまで我がもの顔で結果を待っていたメリーが見るからにむくれている。



「納得いかない」


「それではギルド側の見解を申し上げさせて頂きます」



ーーえーと、僕はEランクでも全然問題ないんだけど……まぁせっかくだから聞いておくか。



「先程の雷撃……あの威力と詠唱省略の技術は凄まじいですが、正直なところ当方での基準では判断をしかねます」


「と、言いますと?」


「前例がなく、規格外過ぎて冒険者ランクの判断材料とはなり得ませんでした」



ーーなるほど、つまり獄雷撃による加点は無し。じゃあ何でEランクに?



「しかしながら、Fランクとするには惜しい人材であることもまた事実。せめて実戦系のクエストをこなせるEランクとさせて頂いた次第です」


「ケチ」


「まぁまぁ……一つ飛び級出来ただけでも上等。これから実力で上がっていけば良いだけの話さ!」


「ニア……さすが、かっこいい」



そうとなれば早速ーー



「実はコボルトの素材を納品したいと思っていまして」


「コボルトですか、かしこまりました……引き続き私が素材鑑定をうけたまわります」


「これなんですけど」



僕は鞄いっぱいに詰め込んだコボルトの爪牙を差し出す。

ちなみに鞄はメリーが大切に保管してくれていたので無事だった。


かなり重みがあり、片手で持つにはかなりしんどいくらいの量だ。

テーブルに置くと“ドサッ”と結構良い音がする。



「こ……この量だと、討伐数は百……いや二百ほどでしょうか。流石ですね……」


「本当はこの“倍”以上は倒したはずなんですけど、鞄に入りきらなくて……」


「倍……⁉︎ ありえない……」


「あとはキングエイプやハイコボルト、ハイオークの群れも倒したけど素材は拾えず仕舞じまいで……」


「な……なな……なんですって」



ーーどうやら窓口のお姉さんも僕の初心者っぷりに呆れ返っているようだ。今度はもっと大きな鞄を持っていかないとな。



「ニア、そのことなら心配ない。昨日のうちにギルドに“回収を依頼”した。だから後でみんなと合流して報酬の分配する」


「なるほど……回収なんて便利な仕組みがあったのか……」


「Cランク以上になると頼める。ちなみに私とローはBランク、ニスカとアルフがCランク、ウェルグとリヨンはDだったはず」


「き……昨日の大量の素材、あれはニア様の…………あぁこの方はどこまで規格外なのでしょう」



ーーまたお姉さんを呆れさせてしまったみたいだ。Dランクになる前には色々と勉強しておかないとなぁ。


そうこうしている間に鑑定が終わる。

気になる結果はーー



「全て合わせて、三十万アストルで買い取らせて頂きます」


「三十万……!」



節約すれば、およそ三ヶ月は暮らせるような大金だ。

もちろん城や屋敷では金銭のやり取りなんてしたことがなかったけれど、冒険者になる上で金銭感覚は必要な知識の一つ。


その辺りの知識は多少詰め込んである。



「それから……」


「ん? まだ何か?」


「ニア様、あなたを“Dランク冒険者”に昇格させて頂きます」


「え……?」



ーーニア・ヴァルトールはDランク冒険者になった。えーと……いいのだろうか、これで。


隣でメリーが少し気分良さそうにしているからいいか。

僕の手を握ってブンブン振り回し始めた。可愛いな。



「冒険者ランクってそんなすぐに上がるものなんですか?」


「あなたが規格外なだけです!」



またまたお姉さんの呆れ顔を拝むことになるとは。

Dランクになるまでに常識を身につけるという目標は果たせなかったなぁ。



「オーク約百匹、コボルト推定六百匹、キングエイプ三体、ハイオーク五匹、ハイコボルト十匹、そして極め付けが一頭のキマイラ」



お姉さんが早口で読み上げたのは沢山のモンスターの名前だ。


ーーお姉さんは美人で仕事が出来る上に、滑舌かつぜつがまで良いんだなぁ。


僕の感心をよそに彼女はさらに続ける。



「それが昨日の一番の大量納品でした。依頼主は何を隠そうBランク冒険者風の戦乙女ワルキューレ、メリー様です。が、しかし報酬の受け取りをわざわざ今日に指定なさった。そ……そのほとんどをニア様がやったとすれば全ての辻褄つじつまが合う!」


「だからずっとそう言ってる」


「それらが決してメリー様やヴァリアン・ロー様だけのお力ではないことは先の“雷撃”を見て私共も納得致しました。さらにこのコボルトの爪牙をお納め頂いたことでDランクへの昇格が相応しいと判断されました」



ひと息で全て話し終えるお姉さんの肺活量に僕は思わず小さな拍手を送った。



「Dランク昇格おめでとう」



メリーに言われて、その事実を改めて実感する。

何だか冗談のようにトントン拍子で進んでいくものだから僕も感覚が麻痺していたようだ。


ーー僕も一人前の冒険者として認められたということ。


一年以内にはなんとかしないとと焦っていたけれど、驚くほどあっという間に目標を達成してしまった。



「ありがとうメリー」


「ニアもすぐBランクになる、そしたらダンジョン最深部まで一緒にいける」


「えーと……Bランクにならないと最深部には行けないの?」


「ダンジョンの挑戦は自己責任、Bランクになるとギルドから正式にクエストを受けてサポートを受けられる」


「なるほど」


「特に針林ダンジョンの“大穴”はサポート無しで飛び降りたら死ぬと思う」


「なるほど……」



早速、次の目標が決まった。

Bランクへ昇格してダンジョン最深部に挑戦する。


そのためにしばらくは冒険者ギルドの依頼をこなしていこう。



「登録も終わったし、みんなのところに戻ろ」


「ああ!」



こうしてニア・ヴァルトール改め冒険者ニア・グレイスは決意を新たに歩き出した。

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