第26話 キマイラ討伐の功労者

==ヴァルトール帝国・郊外ブリスブルク・冒険者ギルド支部==



「これはこれは“|風の戦乙女(ワルキューレ)”メリー・ロゼット様、よくぞお越し下さいました」



冒険者ギルド、ブリスブルク支部の窓口となっている女性がこちらに頭を下げる。



「この度はキマイラの討伐おめでとうございます。我々としても非常に喜ばしいことで感謝に絶えません」


「だから違う。キマイラを倒したのはこの子、ニア」



ようやく僕とお姉さんの目が合う。

彼女は僕とメリー、そして繋がれた手を何度か見回して頭をパンクさせたように目を閉じた。



「ご……ご冗談を」


「冗談じゃない、連れて来いって言われたから連れてきた」


「確かに当事者、証人、結果が揃えば認められるはずと申しましたが…………冒険者でもないこの小さな少年が……?」


「そう」



なんだか話しがややこしくなりそうなので、メリーには悪いけど割り込ませてもらおう。



「おっしゃる通り僕は冒険者ではないので、まずは今から登録をしたいのですが……」


「な……なるほど、登録希望の方ですね! では早速準備を致しますので、少々お待ちください」



窓口のお姉さんはそう言って慌てて準備を始める。

いかにも仕事が出来そうな雰囲気の彼女はテキパキと、あっという間に準備を済ませた。


「それではまずお名前を」


「ニア・グレイスです」


「ニア・グレイス様……はて、どこかで聞いたことがあるような」


「き……気のせいでしょう。ニアなんてよくある名前ですし」


「それもそうですね」



ーー危ない危ない。まぁ“元”皇子だとバレても問題はないと思うけど、何か面倒ごとに巻き込まれても嫌だし当面は伏せておこう。



「年齢は?」


「十四です」


「私は十六、ニアより二つもお姉さん」


「えっ! メリーって僕より歳上だったの⁉︎」


「ニア失礼、これからはメリーお姉さんと呼ぶと良い」


「コホン……では、次に冒険者たるに相応しいかテストをさせて頂きます」


「テ……テスト、ですか」


「はい、魔力測定と筋力測定が主項目となります。他にアピールポイントがあれば自由に披露してくださって構いません」


「なるほど」



まず差し出されたのは綺麗な水晶玉。



「こちらに魔力を込めて下さい。魔力に反応して輝く水晶です。より強い魔力にはより強い輝きで反応を示します」


「分かりました」



そこで名残り惜しそうにメリーが手を離す。

僕は両手で水晶に触れ、魔力の注入を開始した。



「ふんぬぬぬぬぬっ」



光が少しずつ輝きを増してゆく。


ーーが、そこそこの光を放った時点からそのまま一定の強さで輝き続けた。


関係ないが、僕の肩に手とあごを乗せて水晶を覗くメリーが写り込んでいる。可愛い。



「なるほどなるほど、確かに魔力はDランク以上の素質があるようですね……しかしこの程度では超大型モンスターを倒すなど不可能でしょう」


「この水晶壊れてない?」


「そんなことはないはずですが……」



その後も次々とテストをおこなったが、結果はそこそこでーー



「これ大丈夫なのか……」


「ニア様」


「はい」


「ひとまず合格です」


「良かった……」



ーーこれでとりあえず冒険者の仲間入りだ!


夢の冒険者生活が今日この時から始まる。



「やったねニア! それで何ランク?」


「まずは規定通りのFランク冒険者として……」


「まだ。納得いかない」


「えーと、メリー様……まだ何か?」


「まだアピールが残ってる」



そうだった、まだアピールポイントがあれば披露して良いと言われていたなぁ。

確かに単純な魔力や筋力だけで測れない特性というのもあるだろう。



「ニア、キマイラ倒したやつ見せよう」


「えぇ? 獄雷撃(ごくらいげき)をここで? 無理だよ! 建物が壊れる!」


「キマイラを倒した……? 建物を壊す……? なるほど、それは見せて頂く必要がありそうですね。専用部屋がありますのでご案内しましょう」



ーーなんか獄雷撃を撃つ流れになっちゃったけど、大丈夫かな?


僕達はお姉さんに連れられて“結界が張られた部屋”へ移動した。

そこは弓や魔法の“射撃訓練場”のような空間になっており、いくつかのカウンター、そして遠くに動く的が用意されている。



「着きましたよ、この部屋ならどのような魔法を使って頂いても構いません。思う存分“キマイラを倒した”という攻撃を披露して下さい」



そこまでの移動の間メリーはというと、僕の腕にぎゅっとしがみついていた。


つつましやかな胸が終始当たっている。

浴室でのことを思い出し、僕は顔が赤くなった。



「ほ……本当に大丈夫なんですか?」


「はい! 魔法に強い材質で出来ている上に魔力コーティングがなされた壁、そこへ結界が張られておりますのでDランク程度の魔法で壊れるなどということは絶対にありません」


「分かりました」



ーーそこまで言われたら僕でも黙ってはいられない。


僕は念のため持って来ていた魔導書と黒い杖を手にする。



「魔導書……? やれやれ、やはりひよっこではありませんか」



ーーさて、直上方向よりは水平方向の方が壁の被害も少ないだろう。



「獄雷閃」



僕がひとことそう呟けば、黒い杖の先に赤い魔法陣が展開。

そこから直径十五メートルほどの赤黒い雷の閃光が射出された。


出来るだけ威力を抑えるイメージはしたものの、やはり意味はない。


その閃光は軽々と壁を破壊し、ギルド支部にドデカい風穴を開けた。



「嘘……」



ギルドの女性従業員は呆然と立ち尽くすばかり。

メリーが僕の代わりに隣でドヤ顔をしている。可愛い。



「え……詠唱もせずに、この威力。一体何なんですか、この魔法は⁉︎」


「えーと、何かと言われると“普通の雷撃”としか……」


「普通の雷撃⁉︎ これが⁉︎」



全くもって信じられないといった表情の女性。

そう、確かに僕も未だに“獄雷撃”が一体何なのかは分かっていない。ーーお姉さんの気持ちは分かります。



「何があった⁉︎」



当然ながらギルド支部の職員達が続々と駆けつけてきた。

色々聞かれて、色んな人に怒られた。理不尽だ。


とりあえず壁を弁償しろということにはならなかったのが不幸中の幸いである。


そして、気になる僕の冒険者ランクはというとーー

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