第25話 憧れの冒険者ギルド
==ヴァルトール帝国・郊外ブリスブルク・冒険者ギルド支部==
ーーどうにも視線を感じる。気のせい……ではないだろうな。
僕は今、ブリスブルクで一番高い建物を目の前にしていた。
そう、冒険者ギルドである。
長らく目標としてきた場所を目の前にして、“僕達”は
「あれって
「なんでもキマイラを倒したらしいぞ」
「キマイラって実在するんだ! ってか、隣のやつ誰だ?」
周りからの熱い視線。
それは主にメリーに向けられたものだった。
しかしながら、同時に“火花散る熱い視線”が僕に注がれていたのもまた事実。
なぜならーー
「メリー……そろそろこの手離さない?」
「ニア、私と手をつなぐのイヤ?」
そう、僕とメリーは手をつなぎながら冒険者ギルドへ
「いやじゃないけどさ」
「じゃあこのまま」
「そういうことになりますか」
「そういうことになる」
僕はなんとも複雑な気持ちを抱いたまま、憧れの地に足を踏み入れた。
そこはヴァルトール城にも負けず劣らずの広い空間、数えきれないほど沢山の冒険者達。
ーーある意味、手を繋いでいて正解だったかもしれないな。
そう思わせるほどの賑わいを見せるのが冒険者ギルド、ブリスブルク支部である。
「まずは冒険者登録だな」
「うん、ニアなら最初から私と同じBランクかも」
「いやいや、流石にそれは」
冒険者登録のために窓口へ向かう僕達二人。
ーーそれを追って走ってくる一人の女性がいた。
「おーい! メリー! ニアくんっ!」
元気いっぱいの声と大きな仕草、あれはーー
「ニスカさん!」
「ニアくんっ、無事で良かった……って二人手つないでるしっ! へへ、私も繋いじゃおっ!」
赤髪の双剣士、ニスカが再び仲間に加わった。
ーーって、そうじゃない。
僕は今右腕をメリーに抱かれ、左手をニスカさんにガッチリと掴まれている。
それをすれ違う人達がジロジロ見ている。
ーー嬉しいような、恥ずかしいような。
すると、メリーが少しむくれて言い放つ。
「ニスカ、おじゃま虫」
「あらあら、メリーったら随分と色気づいちゃって! お姉さん悲しいなぁ」
「おいおいお前ら、早速見せつけてくれやがって」
やれやれと言った顔で近づいてくる面々の先頭に立っているのは槍使いのローだ。
「ローさん! 助かりました……色んな意味で」
「よっ! 坊主も元気そうで何よりだ! さっそく女連れとは感心しないがな、がっはっはっは」
彼と一緒に近づいてきた三人は、男性二人と女性一人。
男性のうち、一人はあの桃色の髪をした魔法使いの男だ。
「私は認めないぞ……この業炎のアルフレッド・スティンガーが貴様のようなひよっこに助けられたなど」
「おい、アルフ……あんまり子供をいじめてやんなよ」
「そうですよ、アルフさん。私達は助けて頂いたのでつかりゃ……うぅ噛んじゃった」
アルフと呼ばれた桃髪の魔法使いはさらに続ける。
「私は自分の目で信じたものしか信じない。私は貴様の力を見たわけじゃない……つまり私は貴様に助けられてなどいないっ……!」
「おい、アルフ……あんまり子供みたいなこと言ってんなよ」
「そうですよ、アルフさん。みっともないでしゅよ……また噛んじゃった」
ーーアルフさん、愛されてるなぁ。
僕は直感でそう悟る。
「紹介が遅れたな、プライドの高いこいつがアルフ。もう一人の男が弓兵のウェルグ。そっちのちっこいのがリヨンだ」
「プライドが高いのではない、実力の位が高いのだ」
「もう一人……って、そりゃあんまりだぜローの旦那」
「ちっこくないでしゅ……あぅぅ」
ローさんの雑な紹介に三者三様のツッコミが入る。
賑やかな人達に迎えられて安心しつつ、僕も挨拶を交わす。
「僕はニア・グレイスです。皆さん、よろしくお願いします!」
「けっ……私は認めないと言った!」
「よろしくな、少年!」
「よろしくお願いしまつっ……ぴぇぇ」
アルフさんはあくまでも対向意識を燃やしているようだ。
こちらもあくまで実力で示していけばいい。
僕は今日ここで冒険者になって、駆け上がっていくのだから。
「ニアくんっニアくんっ、もう素材の換金は済ませたのっ?」
ニスカが問う。
僕の鞄はメリーが回収してくれていた。
ーーそういえば、回収出来なかった素材も山ほどあったけどあれはどうなるんだろうか。
未練に思いを馳せつつ答える。
「まだです……実は冒険者登録もこれからでして……」
「えぇ……⁉︎ それでキマイラを倒しちゃったの? ニアくんったら末恐ろしい子っ!」
「だから私とニアは冒険者登録してくる。ニスカがくっついてるといつまで経ってもいけない」
メリーがニスカを
「はいはい、天下の
「うん、気長に待ってて」
「少し前まで素直で可愛い妹みたいだったのに……こうして巣立っていくのね、お姉さん複雑。ニアくんはずっと素直なままで居てね?」
「は……はいぃ……」
そうして僕は終始顔を赤くしながら冒険者の登録窓口へ向かう。
そんな少年の背中を桃髪のアルフが鋭く
「ふさわしくない……貴様は彼女の隣にふさわしくない」
その呟きはギルドの喧騒にかき消されたが、煮えたぎるような決意が業火のように彼の心を燃やしていた。
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