第45話 仲間との合流、因縁との遭遇

==ヴァルトール帝国・郊外ブリスブルク・冒険者ギルド支部==



ギルド長のソフィアさんと話し終え、少し気持ちを落ち着かせてから僕は冒険者ギルドのロビーへ戻った。

そして先に戻ったメリーを探してみれば“顔馴染みの面々”と既に合流を果たしていた。



「メリー! 皆さん! お待たせしました!」


「ニアおかえり」


「ニア君昨日ぶりー! 何か色々と巻き込まれて大変だったみたいねー」


「えーと……何から話したらいいんだか……あはは」



ニスカさん、ローさん、アルフさん、ウェルグさんの四人だ。

いつもならもう一人リヨンさんがいるはずだけど、今日は来ていない様子。そんな僕の目線に気づいたローさんがやれやれと言わんばかりの顔で話す。



「リヨンのやつは身体がまだ本調子じゃないらしくてな……まぁ三日後までには何とかなるだろ」


「昨日もずっと調子悪そうにしてたからねー」


「リヨンは体力も魔力も空っぽだった、仕方ない」



彼女を除いた五人で今は“針林ダンジョン最深部”への遠征大隊の話になっていたようだ。そして何やらローさん、ニスカさん、ウェルグさんが僕の方を見る目線に違和感を覚える。


僕に対してだけ無愛想なアルフさんと眠たそうな顔のメリーはいつも通りとして、残った三名で何かを押し付けあっているような感じだ。

そして、ニスカさんに脇を小突かれたローさんが観念して話し始める。



「あのな坊主、伝言で残した針林ダンジョン最深部への遠征なんだが…………」



凄く頼りになる印象のローさんにここまで言葉をにごされるとなんだか緊張してしまう。咳払いをしてから彼は続けた。



「これはその……Aランク冒険者の竜滅の英雄バルムンクからの誘いなんだ」


竜滅の英雄バルムンク、バーグ・アムレード……」


「ヤツとの確執かくしつに関しては聞いた、嫌ならもちろん参加を見送ってもらってもかまわん」



その言葉に僕は戸惑わずにはいられなかった。

まさか昨日の今日でまたその名前を聞くとは思っていなかったからだ。困惑したもう一つの理由を解消するべく、僕はメリーに話を振った。



「えっと……メリーは大丈夫なの?」


「私は大丈夫、隙を見て一発蹴る。それでチャラ」


「あはは……」



いつもと変わらない眠たそうな顔のまま冗談を言うメリーにまた癒される。


ーーんーと冗談だよな?


バーグが何らかの理由で僕らに目をつけているのかはたまた偶然なのか。いずれにせよこれは彼を見返すチャンスでもある。

僕も一呼吸置いてから踏ん切りをつけて言った。



「メリーがいいなら僕も大丈夫です、今回は皆さんもいますしね」


「よし、決まりだな! それじゃ明日顔合わせをすることになっているからまた昼頃にここで」



そのあとニスカさんやウェルグさんからブレイザー公爵家のこと、アノンのことを聞かれた僕はこれまでのことを洗いざらい話した。もちろん成り行き上、元皇子ということも打ち明けたが二人ともそこは逆に納得といった表情を見せる。


ーー僕としてはメリーの過去やハルさんのことを少し聞きたい気持ちもあったけど、それはまた今度にしよう。




==ヴァルトール帝国・郊外ブリスブルク・ブレイザー公爵邸==



その時僕達は完全に油断していた。

メリーと共にブレイザー公爵邸へ着くやいなや、「今日は僕達以外にも客人がいる」ということをメイドさんから聞かされたのだがーーーーそう、聞かされてはいたのだがそれがまさか“あの男”だとは思わなかった。



「やぁ奇遇だね、少年少女」


「バーグ……アムレード……」



悪寒が走り震える身体に強く息を吸い込んで、何とか気丈に振る舞うが思考の整理が追いつかない。そんな僕の手をメリーが握ってくれた。



「多分大丈夫、敵意は感じない」


「あぁ今日はちょっとした繋がりがあって私も夕食に招待されてね、そんなに身構える必要は無いよ」



昨日と同じ不気味なほど爽やかな笑顔、いくら大丈夫だと言われても何度見てもきっと慣れそうには無い。

しかしながら今の彼は白銀の鎧も黄金の大剣も身につけておらず、またその後ろに公爵家の少年バロンが見えたことで流石の僕の身体も自然と警戒が解けていく。


ーーとうのバロン君は依然として僕を睨んではいたけれど。



「君達も針林ダンジョン最深部の遠征大隊に参加してくれると聞いて安心したよ。実は今回バロン君達のおりを任されているんだ。きっと“彼ら”も心強いことだろう」


「メリーさんも来てくれるんですか! 嬉しいです!」


「うん、よろしく」


「あら! 皆様お揃いで!」



場を一瞬で和ませるようなその明るい声の正体はアノンだ。

今日は客人が多いからだろうか、パーティ用の黄色いドレスに身を包んだ彼女は大人の魅力がさらに引き立っている。



「お食事までまだ少し時間がありますからお茶でも少しいかがですか?」


「アノン公女殿下素晴らしいお考えですね。このバーグつつしんでお招きに預かります。君達も行くだろう?」



その場に彼女と彼の誘いを断る者がいるはずもなく、僕とメリーは何故かあのバーグとお茶会の席を囲むことと相成あいなった。


此度こたびのお茶会の中心はと言えば風の戦乙女ワルキューレことメリー・ロゼット氏。彼女はバロン少年と仲間の少女達三人に質問責めにされて僕の方へチラチラ助けを求めて来ていた。

しかし、一方の僕も竜滅の英雄バルムンクことバーグ・アムレード氏に質問責めにされてメリーの方へチラチラ助けを求めていたのである。



「少年、あれは聖女の力だろう?」



バーグのあまりにも単刀直入な質問に僕はまた背筋が凍るような思いがして答えに詰まる。すると彼はまた不敵に笑って言った。



「ははっ……隠す必要はないよ。私は一度だけ聖女フリージア様と手合わせしたことがあるんだ」


「母上……フリージア様と?」


「ああ、本当に素晴らしい剣だった。そして魔法も一級品で私は手も足も出なかったよ。次は勝つと心に決めて私はひたすら剣を磨いた。だからこそ君には期待している」


「は……はぁ」


「昨日は一方的に力量を試すようなことをして悪かったね。力を見せてもらったお返しに良いことを教えてあげよう。君はあれを“雷撃系の魔法”として認識しているが本質は違う」



ーー雷撃系の魔法……! 獄雷撃のことか!



「雷撃と結び付けることで無意識のうちにかせをつけ、その発動条件を満たしたのだろうがあれは“寵愛”のたぐいであるはずだ。本来魔力も詠唱さえ必要としない」


「どうしてそんなことを知って……」


「無論それも見たことがあるからだよ。そして寵愛であれば私の“聖大剣”でも防ぐことは出来ないだろう。次に闘うまでには使えるようになっていえくれたまえ」



ーー少しだけ……本当に少しだけだけど、初めて彼が何を考えているか理解出来た気がする。


バーグ・アムレードはいわゆる戦闘狂だ。それも聖女フリージアの背中を追い続けている。彼は僕を追いつめて聖女の力を引き出した上で勝利したいのだろう。

つまり今後も付きまとわれることがほぼ確定した訳だがーーーーまぁ少しでも母上の話が聞けたから今日のところは良しとしますか。



「それと昨日のお詫びと言えるか分からないが私の助けが必要な時は遠慮せず言って欲しい。その時は全力で期待に応えよう」


「は……はぁ」



含みのある彼の言葉の真意がよく分からないまま僕はお茶をすする。そうして僕が困惑している様子がおかしいのか、隣に座っているアノンはにこやかに微笑んでいた。

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