第4話 僕の雷撃は威力がおかしい
==ヴァルトール帝国・郊外ブリスブルク・皇帝別宅==
翌日、まだ日が昇りきる前に目が覚める。
というより興奮し過ぎてあまり眠れなかった。
こんな高揚感は一体いつぶりだろう。
僕は昨日の“
ーーあの雷撃はどう考えても威力がおかしい。
大岩を砕くイメージで放った結果があれだ。
今でも本当に自分の雷撃なのか疑ってしまうほど。
ーー昨日の光景を思い出し、何度となく心を踊らせる。
「もう一度……試さないわけにはいかないよな」
あの力を使いこなせれば僕は念願の冒険者になれるだろう。
その中でも上位のAランク冒険者になることだって夢じゃないかもしれない。
そんな期待が僕の心を奥底から奮い立たせる。
ーーそれどころか魔王軍の侵攻を止めることだって……
未練がましく過去にすがろうとする自分に気づき、新たな決意でそれを一蹴する。
ーー僕は変わるんだ、過去を振り返るのはこれで最後。今日からは未来の成功だけを考えればいい。
思い立ったが吉日、早速どこかで試し撃ちが出来ないだろうか。
とはいえ、比較的人目につきにくいはずの裏山であれだけの騒ぎになってしまった。
実はあの後、日没まで何人もの衛兵が街中を走り回っていたらしい。
当然この屋敷にも安全確認の名目で何度か来訪があったようだ。
「地面から遥か上空まで届く上級レベルの赤黒い雷撃系魔法……嫌でも目立つよなぁ」
特に屋根のある場所や屋内、洞窟のような場所では試すことも難しいだろう。
「となれば、やっぱり…………
この皇帝別宅があるブリスブルクは帝国の中では南端に位置する
そのさらに南方の国境をまたぐ広大な針の森が通称・針林ダンジョンと呼ばれている。
北の帝国と大陸中央部を
そこは獣型モンスターの巣窟であり、一度踏み入れれば
大陸中央に向かうには通常そこを避け、南東方面に整備された街道や東の運河を使用する。
ーーつまり森に人が近づくことは滅多にない。
立ち寄る人間がいるとすれば現役の冒険者くらいだ。
きっと冒険者なら強力な魔法を見てもそこまで驚かないだろう。
宮廷魔法師団にも上級魔法を扱う魔術師はごろごろいた。
もっと派手な魔法を使う人達だって大勢いるはず。
「屋外で、人目につかず、騒ぎにならない場所……これ以上の適地も他にない…………けど」
しかし、ダンジョンには当然危険がつきまとう。
僕はダンジョンに行った経験どころか、ここへ追放されて以来
魔法やモンスターなど、冒険者としての知識にはある程度自信がある。
しかしながら、僕は箱入りの世間知らずもいいところ。
ダンジョンがどれだけ危険なのか検討もつかない。
まず自力で街を抜け、目標の場所にたどり着けるかが心配なほどだ。
ーーでも、今湧き上がるこの感情を僕は抑えることが出来そうになかった。
あの雷撃魔法は再現性があるのかどうか。
その可否は僕の今後の人生を左右する言わば最優先事項だ。
ーーどうしても、ダンジョンであの雷撃を試し撃ちしたい。
「入口辺りで魔法を試すくらいなら大丈夫……きっと大丈夫…………なはず」
あまりにも無謀な希望的観測。
それでも今はその無謀に賭けてみるしかない。
そうなれば善は急げだ。
僕は旅の準備を整える。
「荷物は最低限が良い、いざという時逃げられないと困るもんな。魔導書と軽い食糧さえあれば何とかなるかな」
文献を書き出して自作した魔導書。
魔法発動のための装置としての役割だけでなく、メモ代わりにもなっている。
魔法のコツや苦労した部分についても記してある思い入れのある一品だ。
僕はそれをすぐに扱えるよう、腰に付けられる魔導書ホルダーも自作してある。
サイズはぴったり、ボタンを開ければすぐに取り出せる仕様だ。
背中には小さい
日持ちする食糧だから味には期待出来ないがそこはご
「あとは……念のため剣も一応持って行こうか」
自慢じゃないが僕には剣の才能もない。
ーーといっても、物心ついてから今日まで鍛錬を欠かしたこともない。
実戦を経験していないだけで人並み以上には戦えると思う。
ーーきっとその辺のスライムやゴブリンくらいには通用するはずだ。
「まぁ……無いよりはきっとマシだろう」
僕は早々に準備を終えて部屋を出る。
早朝、まだ太陽も使用人達の大半も起きていないような時分に家を発つことにした。
幸か不幸か、針林ダンジョンまでは裏山を抜けていけば人に見つかることもなく、そのまま半日ほど歩けば到着する。
馬車を使う許可は多分もらえないし、第一自分自身では扱えないから付き添いが必要になってしまう。
それでは人目につかない場所へ行く意味がなくなる。
「まぁ仕方ない……のんびり歩くとしますか」
歩くのも嫌いじゃない。
それくらいの体力もついているし、何より屋敷に居るよりずっと良い。
ーーそして、あの“緋色の雷撃”さえ使いこなせるようになれば、こんな日々ともおさらばだ。
「よし……出発だ!」
僕は夜逃げでもするかのように、早朝ひっそりと屋敷をあとにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます