第8話 たった二匹のコボルト

==針林しんりんダンジョン・一合目==



針林ダンジョンは情報の通り獣型モンスターの巣窟だ。


特にここ北部ヴァルトール帝国側の入り口付近では、狼の頭を持つコボルトが多く分布しているらしい。


コボルトの動きや腕力は人並み程度、低級のモンスターだが油断してはいけない。



「あくまでも遠くから一撃で仕留める」



木影からちょうど良く七、八匹ほどの群れが現れた。


ーー距離は十分にある。


魔導書を手に取り、僕は集中力を高めた。

高鳴る鼓動、ほとばしる魔力、上昇していく体温。


ーー大丈夫、手応えも十二分にある。


地震と地鳴り、そして展開される魔法陣、それが暴走して紅に変わりーー



雷撃らいげき!」



大地から射出された赤黒い雷撃はいとも簡単にコボルトの群れを殲滅せんめつ

モンスターを魔力と経験値、素材に換える。



「よしっ……良い調子だ!」



すると騒ぎを聞きつけたのか、次のターゲットはすぐにやってきた。

僕は慌てて身を隠し、気配を消す。


ーー五匹ほどの群れだ。


先程の雷撃の痕跡を眺め、周りをグルグルと回っている。



「何かを調べている感じだ。やっぱり目立つよな……あの雷撃は」



連続で使用していると敵に位置をバラすようなもの。

もう一度撃ったら場所を移動しよう。


そして、再びコボルトの群れが雷撃の効果範囲へと入った。

それを見計らって僕は魔導書を広げる。



「行くぞ……雷撃!」



紅の魔法陣が展開、集中力を高めさらに魔力を注ぐ。

天に向かって赤黒い雷撃が顕現けんげんした。


ーー今回も成功だ!


威力、消費魔力量、交換範囲、発動までの時間などは殆ど変わらない。

一回一回の雷撃で差が生まれるという心配は要らないようだ。


続いて僕は少し場所を変えては潜伏し、再びコボルトの群れが通りかかったところへ雷撃をお見舞いした。


時にはわざと姿を見せ十体ほど引きつけてから殲滅せんめつ、時には勘のいいコボルトがまっすぐ近づいてきたところを不意打ち。


ーーそうして、気づけば少なく見積もっても“三百匹以上”は倒していた。


手に入れた素材は鞄に入り切らないほど。

雷撃の発動にも慣れてきて、最初に比べれば随分と軽く撃てるようになった。



「結構倒したし、最大魔力保有量も増えてきているのかもな」



そして、はたまた次の獲物を発見。


ーー今度は二匹のコボルトが近づいて来た。



「二匹か……まぁいいか」



僕は少し不満を垂れながら、また雷撃を発動した。

相変わらずオーバーキルにも程がある禍々まがまがしい雷の柱が天空へ伸びてゆく。


巻き込まれた二匹のコボルトは素材を残して消失し、魔力が僕の方へ収束してくるのを感じた。



「順調順調、次は一気に五十体くらい来てくれないかな」



と、そう思ったのも束の間ーー雷撃の効果範囲外から別のコボルトが現れる。

左右から二匹ずつ、計四匹の急襲だ。



「やばい……最初の二匹はおとりか!」



完全に油断していた。集中力が切れ雷撃の形に変化が生じる。

ノイズが走ったように線がブレて、周囲を伝う雷が拡散。


そのおかげで偶然にも雷の余波が一体のコボルトを黒焦げにした。残るは三匹。


ーーもう一度、雷撃を使うか?


しかし、次避けられたらもう至近距離だ。

剣で戦うしかなくなる。


そう思った瞬間、かつてない恐怖心が全身を支配した。


ーーやばい……どうしよう。怖い、もしかしたら死ぬかもしれない。


強力な魔法を手に入れて、舞い上がっていたツケが回ってきたのだ。


い知れぬ悪寒と冷や汗が全身を伝っていった。

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