第27話 悪徳領主を暴力で躾ける


 あれだけの大立ち回りをしてきた闖入者ちんにゅうしゃである僕は、どうせもう平和的に話し合いなどできるわけもない。開き直った僕は、執事を脅して領主の居場所へと案内させた。二階の北側、突き当りの部屋まで通される。


「こ、こちらにいらっしゃいます」

「そうか。案内ご苦労。おやすみ」


 警邏けいらの兵士を呼ばれても面倒なので、そいつの首筋に手刀を打ち込んで昏倒こんとうさせた。もちろん、屋敷内で目についた侍従たちはみんな眠らせている。


「それじゃあ、行きますか」


 僕は右足を後ろへ引いてめを作ってから、部屋の扉を勢いよく蹴破った。


「な、なんじゃ!? 何事じゃ!?」

「お邪魔しますよ」


 慌てふためいている男の声を無視して入室する。部屋へ入るなり、強烈な甘い匂いが鼻をついた。おこうだろうか? 安い宿屋が匂い消しのためにくものとは違った趣のある香りだ。


「だ、誰じゃ貴様は!? このカダベル・ペリュオン様が政務に励んでいるところへズカズカと押し入るなど無礼千万であるぞ!」


 声のする方へ目を移す。そこには巨大で豪華な天蓋てんがい付きのベッドがあり、一人の男と五人の女性が乗っていた。みんな裸だ。ははぁ、なるほど。焚かれているのは催淫効果のあるお香だな。それで女の子たちと楽しんでいたってわけだ。


 ふんっ、なにが政務だ。虫唾が走る。なので、カダベルとおぼしき男へバカにするような口調で話しかけた。


「あれ、僕の目がおかしいのかな? とても政務に励んでいるようには見えないんだけど?」


 僕が近づいていくと、女性たちは悲鳴を上げて逃げて行こうとした。なので、もれなく気絶させてやった。


「ひっ、人殺し!」

「違うよ、眠ってもらっただけさ」


 僕がベッドの上へ飛び乗ると、カダベルが手足をバタつかせて後ずさる。だが、途中で壁に当たって動きを止めた。びくびくと震えている。僕はそいつの傍らに立ち、冷たい目で見下ろした。


「ずいぶんと、だらしない体だな。多くの領民たちがガリガリに痩せてるってのに、豚みたいにブクブク肥え太りやがって。ふんっ、彼らから搾り取った税で文字通り私腹を肥やしたってわけだ。なんとも、ご立派な領主様だな」


 僕は頭にきたので、怒りにまかせてカダベルの左足を踏み潰した。


「ぎゃああああああ!!!」


 カダベルが悲鳴をまき散らす。しかし、両目からボロボロと涙をこぼしながら、それでも僕をにらみつけてきた。


「ワ、ワシは領民のためにやったのだ! 税を多く徴収して貯蓄しておけば、飢饉ききんのときに苦しい思いをさせずに済むと、そう考えてやったのだ! ワシほど領民思いの領主はおらんぞ!? そのワシにこんなことをして、どうなるか分かっておるのか、小僧!?」


「は? 知るかよ。というか、お前が飢饉に備えて税を多く徴収しているせいで、領内が飢饉みたいな状態になってんだよ。これじゃあ本末転倒だよな?」


 僕は、今度はカダベルの右足を踏み潰した。


「ひぎいいいいいい!!!」


「お前、外の村の様子を見たことあるか? ひどいもんだぞ? カビたパンの一欠けらや腐った果物を奪い合って村人たちが争って、死人まで出ているんだ。あれを一度でも見ていたら、とっくに税率を引き下げているはずだ。領民思いの善良な領主ならな。だが、そうしていないってことは一度も領民の様子を見ていないか、見たとしても黙殺しているかのどちらかだ。これってさ、どちらにしても善良とは言えないんだよな。領民の様子を気にかけない領主が善良なわけないし、見て黙殺しているなら言わずもがなだろ? いや、そもそも善良な領主だったら、どんな理由があろうと領民たちに生活が立ち行かなくなるほどの重い税を課そうなんて思わないか。苦しめてしまうのは目に見えているもんな。……結局、お前は自分に都合のいいお題目を唱えて、領民たちを搾り上げて贅沢三昧ぜいたくざんまいしたかっただけだろ? なあ?」


 僕はカダベルの髪の毛をつかんで持ち上げ、顔面を軽く殴打した。


「ぶべらっ!」


 ベッドの上に鼻血が舞い散る。カダベルの豚鼻が見事にペシャッと潰れた。


「ふっ、少しは見れる顔になったな」

「き、きしゃま! ゆるしゃにゃいじょ! れったいに、ゆるしゃにゃい!」

「あ? なんて言ってるんだ? あいにく僕は人間なんだ。豚の言葉は理解できないなぁ」


 そう冷酷に言い放って、再び顔を殴る。しおらしい態度になるまで殴り続けてやるつもりだ。


 他人の痛みが分からないような悪徳領主には、痛みをもって説得するしか方法がないからな。


 痛みを知ることで他人の痛みを理解し、己の行いを反省することができるようになる。反省すれば改心することができるようになる。他者の痛みに寄り添うことができるようになる。それを思いやりって言うんだ。人間を人間たらしめている大事なものだよ。それを獲得できるようになるまで、たっぷりとしつけてやる。


 ……ただ、この豚は物覚えが悪そうだから時間がかかるかもなぁ。


 はぁ〜。こいつを殺せれば手っ取り早くていいんだが。でも、こいつを殺したとしても、その後に来る領主がマトモとは限らないしな。


 領主の座を適当な人に禅譲ぜんじょうさせるって手段もあるが、当人たちだけで決めていいものではないしな。王様の許可が必要なんだが、それはそれでかなり時間がかかるだろうし。


 となると、こいつを調教するのが最善なんだよな。ふぅ。まあ、頑張るしかない。





◆ ◇ ◆





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漆黒の魔剣使い 〜足を斬られてダンジョンに置き去りにされた無職の僕は、悪魔の力を手に入れて強くなって生還したので勇者どもに復讐&『ざまぁ』します!〜 マルマル @sngaoyama

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