第14話 怒りの剣閃 (後編)


 ハゲ男が地面に膝をついた。転がっている自分の指を集めようとしているのか、手のひらでせわしなく土をいている。苦鳴をもらしながら涙と鼻水を垂れ流し、一心不乱に作業に打ち込んでいた。


 だが、そもそも指がないのだから掴めるはずもない。ただただ不毛な努力が続いていく。みじめな光景だな。少しは溜飲りゅういんが下がったぞ。まあ、まだまだこの程度じゃ足りないがな。もっと苦しめてやらないと。


「こ、このクソガキッ!」

「おかしらにナメたマネしやがって!」

「死にさらせ!」


 しばらくハゲ男の行動を静観していると、周囲のザコどもが僕めがけて一気に雪崩なだれ込んできた。


「邪魔だ」


 僕はそいつらの太ももを横なぎに斬りつけていった。


「いぎゃっ!?」

「あ、足が! 足がぁぁぁ!」

「うわぁぁぁ! 血が止まらねぇよぉぉぉ!」

「く、クソがっ! なんなんだこいつは!?  動きが見えねぇ!」

「ば、化け物! 化け物だ!」


 ざっと50人ほどのシーフたちがあっけなく倒れ伏した。両足とも深く斬りつけてやったから、まともに身動きできないだろう。逃げようとしてもさほど遠くまでは行けないはずだ。


「お前らは後でじっくり料理してやる。そこでおとなしく待ってろ。……ん?」


 僕が他の連中の相手をしていて、ほんの少し目を離した隙に、ハゲ男はこちらに背を向けて駆け出していた。


 僕は倒れているヤツらを足蹴あしげにしながら、ハゲ男を追い越して正面へ回り込んだ。


「ひっ!?」


「おいおい、仲間を見捨てて一人だけ逃げるつもりだったのか? いい性格してるじゃないか。反吐へどが出る」


「た、た、助けてくれ! い、いえ、助けて下さい! どうか命ばかりは―――」


 ハゲ男が言い終わる前に、僕はヤツの左腕と右腕へ交互に剣を振るった。肉をズタズタに斬り裂いていく。その度に血しぶきが宙を舞った。


「うぎゃあああ! いだいいだいいだいいだい! や、やめで! もうやめでぐだざいぃぃぃ!」


「今までさんざん人々を痛めつけてきておいて、いざ自分が同じことをされたらやめてくださいだと? ふざけるのも大概にしろよ」


 必死な面持ちと声で許しを乞うが容赦する気はない。手の先から肩口にかけて、まんべんなく刃を通していく。


「がぁぁぁ、いぎっ、ぁぁぁ!」


「どうだ? 少しはこの村の人々の味わった苦しみが理解できたか? え? どうなんだ? 答えろよ、なあ?」


 僕は返答を待たずに斬りつけ続けた。今度はハゲ男の両足へと矛先を変え、幾度も黒刃を閃かせる。ヤツの服や軽鎧は鮮血で真っ赤に染まっていた。


 やがて、耳障りだったわめき声も小さくなっていった。足の肉を削ぎ落とされて立っていられなくなったハゲ男は、力なく仰向けに横たわる。そして、情けなく命乞いしてきた。その姿に、最初のころの威勢は欠片もない。


「ど、どうがお慈悲を…………もう二度ど村を襲っだりじまぜんがらぁ…………だずげで…………ゆ、ゆるじで…………ごめんなざい…………反省じでまず…………ごめんなざいぃぃぃ」


 僕はそいつのかたわらに立ち、冷めた目で見下ろしながら告げた。


「お前、なにを勘違いしてるんだ?」


「ぶぇ?」


「謝るべき相手は僕じゃないだろうが」




グサッ、グサッ、グサッ



 

 僕はそいつの腹を何度も突き刺しながら吐き捨てた。


「謝罪なら、自分が手にかけてきた人たちにしろよ。……あの世でな」


 最後に心臓へ深く刃を押し込む。するとハゲ男は「ゴフッ」と血を吐いて白目をむいた。息の根が止まったことを確認すると、僕は剣を引き抜いてからゆっくりと背後へ首を回した。


「待たせたな。次はお前らの番だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る