第13話 怒りの剣閃 (中編)


 しかし、彼らが襲いかかろうと一歩踏み出したとき、リーダーと思われるハゲ男が一喝した。連中の足がピタリと止まる。ハゲ男は、人垣を割って僕の方へ歩みを進めてきた。


「俺にやらせろ。こういう生意気なガキには俺が直々に礼儀ってもんを教えてやらねぇとな」


 いやらしく口元をつり上げながら僕を見下ろす。僕はそいつの目をキッと睨み、皮肉を返してやった。


「ふんっ、そっちが礼儀を教えてくれるっていうなら僕はお返しに、この剣の切れ味をたっぷりとその体に教えてやるよ!」


「あひゃひゃひゃっ! 威勢がいいな。だが、いつまでそんな態度でいられるか見ものだぜ」


 そこで言葉を切ると、ハゲ男は自身の腰へと手を伸ばした。おもむろに引き抜いた物を僕の方へと突き出す。それは裁縫針を大きくしたような、細く尖った形状をしていた。


「!? お前……それは……」


「こいつか? こいつはスティレットっつー短剣だ。見るのは初めてか? まあ、それもそうか。こいつはチェインメイルや全身鎧の隙間に突き刺すための武器なんだが、リーチが短くて殺傷力も低いときた。使うヤツなんてほとんどいねぇだろうよ。……クククッ、じゃあどうして俺がそんな武器を愛用してるか分かるか?」


 ハゲ男の顔が邪悪に歪む。


「それはなぁ、できるだけ長く獲物を苦しめるためだぜ! 俺は人の悲鳴を聞くのが大好きでなぁ! とくにの悲鳴が大好物なんだよぉ! クククッ、今日はツイてるぜぇ! もう一度おもちゃで遊べるんだもんなぁ! あひゃひゃひゃ、楽しみだぜぇ! できればテメェも、あの宿みてぇに、いい酒のさかなになってくれるといいんだがなぁ!」


「宿屋の母娘……だと?」


 この村に宿屋は一つしかない。……やはり、そうか。お前か。お前があの二人を手にかけたんだな。


「期待してるぜぇ! キャンキャン可愛い声で鳴いて俺を満足させてくれよぉ! あひゃひゃひゃひゃひゃ―――」


 

グサッ



「―――ひゃ? ……ぐぼぁっ、がはぁっ!?」


 僕は一瞬で肉薄すると、ハゲ男の腹に剣を突き刺した。そのままゆっくりと手首を捻っていく。ブチブチと肉がねじ切れる音が僕の鼓膜を震わせる。


「テ、テメェ、い、いつの間に!?」


 ハゲ男の手から短剣がこぼれ落ちる。口から血を流し、かすれた声をもらしながら、


「ぐっ、ふ、ふざけたことしやがって! こいつを抜きやがれ!」


「抜けだと? ……ああ、そうか。痛いのか。他人の痛みが分からないようなヤツでも、自分自身は痛みを感じるんだな。そうか、なら抜いてほしいよな。……だが、本当にいいのか?」


「?」


 ハゲ男は、僕の質問の意味が分かっていないらしい。しかし、律儀に教えてやることもないだろう。それに、この後どうやって痛めつけてやろうか考えていたところだ。ちょうどいい。抜いてほしいというのなら望み通りにしてやるまでだ。


 僕はスッと剣を引いてやった。


「いっ!? いぎゃああああああ!!!」


 刀身をつかんでいたハゲ男の五指がスパッと切断され、ポロポロと地面に転がった。


「だから言ったろ? 本当にいいのかって」

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