第16話 鉄壁の都


「見えてきたな」


 ごつごつとした岩がいくつも転がっている丘陵地帯を進んでいると、雲を突き抜けるほどの巨大な外壁が前方に姿を現した。


 アスガルド辺境伯領で最大の都市―――リトリオンを守る壁だ。


 辺境伯の居住する城が置かれているだけあって壮観だな。この鋼鉄で造られた六角形の厚い外壁が、ことごとく敵の侵入を拒むわけだ。鉄壁の都と呼ばれている理由にもうなずける。


「……って、感心している場合じゃないな。早く商人ギルドへ行かなきゃ」


 ここへ来た目的はたった一つ。ジュダスたちの情報を手に入れることだ。


 ピンへ村では残念ながらヤツらの動向を探ることができなかった。でも、闇雲に探したのでは効率が悪い。そこで、商人ギルドで情報を集めようと考えたんだ。


 商人は色々な場所へおもむいて行商するから、ジュダスたちを見かける人が必ず出てくるはずなんだ。


「……ふっ、もうすぐだな。もうすぐ会えるぞ、ジュダス」


 まったく、楽しみだ。楽しみでしかたがない。気が狂いそうだ。




◆ ◇ ◆




 都市を囲む六角形の外壁には、それぞれの面に門がある。僕はそのうちの一つへ歩み寄った。仰々しい鎧を着こんだ警備兵が六人、門の前に陣取っている。


「そこで止まれ」


 近づくと、その中の一人が僕の前に立ちはだかった。


「身分証を提示してもらおう」

「はい、冒険者証が…………あ」


 しまった。冒険者証が入ったバッグはジュダスに持って行かれてしまったんだった。あれは身分証の代わりにもなるから便利なのだが……。


「えっと、すいません。無くしてしまって」


 くそっ、返す返す忌々いまいましい。


「なんだ、身分証を持っていないのか?」


 警備兵の目が鋭くなった。僕のことを爪先から頭の天辺てっぺんまでめるように見てくる。敵国の間者かんじゃか、あるいは魔物が化けているのではないかと疑われているようだ。


「悪いが、身体検査をさせてもらってもいいか?」


「あ、はい。いいですよ」


 壁に両手をつくように指示されたのでその通りにする。ポケットの中身をあらためられ、全身くまなく触られ、ほっぺたをつねられたり、引っ張られたりすること数分。


「……とくに怪しいところはなさそうだな。いいだろう。通っていいぞ。通行税は鉄貨5枚だ」

「はい」


 銅貨1枚を渡して鉄貨5枚のおつりを受けとる。そのやりとりの後、警備兵が他の兵士たちに目配せした。彼らが力を合わせて重そうな門を押し開ける。


 よかった、無事に通過できるようで。しかも、通行税は安かったな。相場は銅貨3枚くらいなのだが。


 まあ、考えてみれば当然か。ここはアイン王国の西端。北と南には長大な山脈があり、それらを挟んで二つの敵国と接した土地なんだ。通行税を安くするなどの対策を講じないと誰も来てくれなくなるものな。


 ……それはそうと、冒険者証がないのは困るな。大きな都市に入るたびにいちいち身体検査をされていたんじゃ面倒だ。それに、金を稼ぐためにも持っていた方がいいだろう。情報収集の前に、冒険者ギルドへ行って再発行してもらおうか。


 当初の予定を変更して目的地を冒険者ギルドに定めた僕は、ペコリと一礼して警備兵たちの脇を通り抜けた。


 門の内側へ入ると、まず大勢の人々の姿が目に飛び込んできた。そこは、たくさんの露店が両脇に並ぶ大通りなのだろうが、人々で埋め尽くされているせいでずいぶんと狭く感じられた。


「さすがは辺境最大の都市だけのことはあるな」


 それはさておき、冒険者ギルドを探さないとな。まあ、冒険者ギルドの建物っていうのは大抵、大通りに面していて普通の建物より数倍は大きいはずだからすぐに見つかると思うが。


 人がごった返していて、すれ違うのも困難な道をしばらくさまよう。すると、見慣れた看板が目に留まった。大きな鳥が翼を広げている絵が描かれている。


「お、あそこだ。けっこう楽に見つかったな」


 どうやら大通りの端の方にあるようだ。もう少しの辛抱だな。




「ひどいっす!!!」




 なんだ? ギルドの方から甲高い声が聞こえてきたぞ?

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