第17話 鑑定士リリム (前編)
大通りの端の方へ行くと途端に人の密度がまばらになった。おかげで目の前の状況がはっきりと把握できる。見ると、冒険者ギルドの前方にある広場で、いかにも冒険者らしい出で立ちの男三人と、一人の
いや、少年の方も冒険者か? 僕と同じく袖のない質素な麻の上衣に半ズボンを着て、さらにその上に革の軽鎧をまとっているので、一応それっぽい恰好ではある。ただ、背丈は僕より低いし体型もほっそりしている。
その少年が噛みつくような勢いで文句を口にしていた。
「パーティメンバーには報酬を均等に分配するって約束だったじゃないっすか!?」
「バカが! それはテメェがパーティの役に立ったらって話だったろうが! 役立たずにやる分け前はねぇんだよ!」
「うわっ!」
あっ! 三人の中で最も屈強な男が少年を殴った。ドサッと地面に倒れこむ。
「うぅ……オ、オイラ、ちゃんと役に立ったっす!」
少年は殴られた頬を手で押さえ、もう片方の手で上体を起こしながら男たちを睨みつけ、声を荒らげる。
「ほう、そいつぁ興味深いな」
「後学のために、【鑑定士】の君がどう役に立ったのかお教え願えますか? リリムくん?」
他の二人がニヤニヤと、リリムという名の少年に詰め寄る。感じが悪いな。
しかし、この子の
などと記憶を探っていると、リリム少年が彼らに食ってかかった。
「まず、宝部屋に続く隠し通路を見つけたっす! そこでは宝箱に擬態した魔物を見破ったっす! だから余計な戦闘をしなくて済んだっす! それに、手に入れたアイテムだって、正確な情報があったから換金所で安く買いたたかれることがなかったっす! 役に立ってないとは言わせないっすよ!」
ふむ。話を聞いた限り、リリム少年はとても役に立っていると思うのだが?
「くくっ、完全にズレてるんだよなぁ」
「なにも分かっていませんね。これだから田舎者は困りますよ」
「!?」
二人の発言に、リリム少年が目を丸くして絶句する。それもそうだろう。まさか反論されるだなんて思っていなかっただろうし。
リリム少年は返す言葉が出てこないといった様子で口をパクパクさせている。と、そこへさらに屈強な男が追い打ちをかけた。
「冒険者ってのはな、魔物を倒すのが仕事なんだよ! 魔物が出現しても戦えず、逃げ回ることしかできなかったヤツが役に立っただって!? 笑わせんじゃねぇ! テメェみてぇな無能は今日限りでクビだ! 当然、報酬もなしだ! おら、分かったらとっとと失せろ!」
「そ、そんな……」
ははぁ、なるほど。そういうことか。
冒険者の仕事は、要人の護衛や希少素材の採取など
護衛の道中には魔物が
ゆえに、冒険者には魔物を倒せる実力が求められることは多い。そのせいで、より強い魔物を倒せる冒険者ほど評価されるような構造になってしまっている。
だから、この三人のように増長する
ふんっ、笑わせてくれるな。だって、この世には戦闘に向いた
だからこそ冒険者はパーティを組むんだろうが。お互いがお互いの足りない部分を補い合い、助け合うためにな。
その点、リリム少年は鑑定士としての役割をしっかりと果たし、パーティに貢献した。報酬を踏み倒される理由も、殴られる理由もないはずだ。
まったく、不愉快ったらありゃしない。胃がムカムカしてくる。一言だけでも口を出さないと怒りが収まりそうもない。
気がつくと、足が勝手に動いていた。僕はリリム少年と三人の男たちとの間に割り込んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。