第22話 竜騎士ヴェルガーを殺そう 2/4

≪side.ヴェルガー≫




 その日の夜。俺はついに竜神の試練を突破した。そして、無事に竜神から究極の力を授かることができた。これでジュダスの俺に対する信頼も高まるだろう。あとはこの力を使って武功を立てれば、俺の人生は安泰だ。


「くふふっ、今夜はパァッと飲み明かすぞ!」


 リトリオンに着いたらすぐに官許区かんきょく(エッチなお店が集まっている場所)へ繰り出して、高級な酒と女を堪能たんのうするとしますか! くふふっ、今日くらいハメを外してもいいだろ! ま、女にはハメまくるんだがな! ガハハハッ!


「……おん?」


 リトリオンに向けて走っている馬車の中から、何気なく外に目をやった時だった。どうも違和感がある。


「もしかして、道が違うんじゃねぇか?」


 外の景色に見覚えがねぇ。俺も、じっくりと眺めていたわけじゃねぇが、ここ何日か通い続けた道だ。記憶が正しければ、今までこんな人気ひとけのない盆地を抜けたことはなかったはずだ。


「おい、御者ぎょしゃ。道を間違えてねぇか?」

「いえいえ、ヴェルガー様。そのようなことはございません」

「っ!?」


 この声、俺が雇った御者じゃねぇ!


 動揺し、体が硬直する。息がつまり、言葉が出てこねぇ。その間にも、御者台に座っているそいつはしゃべり続けた。


「道はこちらであっていますよ。だって……お前の行き先は、あの世だからな」

「な、なんだと!? テメェ、何者だ!?」


 なんとか平静を取り戻した俺は、御者にふんした野郎を怒鳴りつけた。すると、そいつは俺に振り返って、フードで隠れていた素顔をさらけだした。


「テ、テメェは……荷物持ち!?」




≪side.マッド≫




「ふっ、また会えてうれしいよ、ヴェルガー」


 僕はそう言うと、手綱を引いて馬車を止め、御者台から降りた。スタスタと前へ歩いていく。


「言いたいことはたくさんあるだろうが……とりあえず、黙ってついてこいよ」


 振り返らずにそう命令する。ヴェルガーは、どうやらちゃんと追いかけてきているようだ。足音で分かる。


「……よし、この辺でいいだろう」


 適当なところで足を止めると、僕はゆっくりと体を反転させた。


「ようこそヴェルガー。ここがお前の墓場だ」


 大げさに両手を広げてみせる。


「テメェ、さっきから何を言って……いや、んなことより、どうしてテメェは生きてんだ? 無職の無能が、あの状況から生還できるわけねぇだろうが。……まさか、ゴーストのたぐいか?」


「ははっ、バカ言うなよ。よく見ろ。ちゃんと足がついてるじゃないか」


 僕はおどけた調子で片足を上げてブラブラさせた。それを見て、ヴェルガーは神妙な顔をした。


「そういや、ゴーストに足はねぇか。つーことは、……どうやら本当に生きてるみてぇだな。だが、なぜだ? どうやって助かった?」

「それはな、こいつを拾ったおかげだよ」


 僕は魔剣を出現させて胸の前に掲げた。


「む!? なにもねぇところから出てきた!? まさかそれは……レジェンド装備なのか!?」

「そうさ。しかも、ただのレジェンド装備じゃない。これは悪魔が宿った剣、魔剣なんだ」


「魔剣だぁ? あの、絶大な力を得られるっつー装備か? はっ、あんなもんは迷信だろうが」

「じゃあ、どうして僕は生きてるんだよ? 他に方法があるか? 魔剣でも手に入れない限り、無職の人間がSランクダンジョンから生還するのはムリだと思うけれどな?」


 僕が問うと、ヴェルガーは黙り込んだ。顔をしかめながら僕の手に収まっている剣を無言で凝視する。辺りを沈黙が支配する。それから数分後、ヴェルガーが静寂を破った。


「本当に、魔剣ってのは存在したのか? ……いや、テメェみてぇな無能が助かる方法なんざ、神か悪魔の力でも借りるより他にねぇか」

「どうやら飲み込めたようだな。物分かりがよくて助かる」

「……けれどなぁ」


 納得したのもつかの間、ヴェルガーはいぶかしげな視線を送ってきた。


「それはいいとして、さっきのテメェの言葉はなんだ? あの世とか墓場とか言ってたようだが? もし聞き間違いじゃねぇならひょっとして……テメェは俺を殺す気でいるってことか?」

「ははっ、大正解。その通りだよ。これから僕は、お前にたっぷりと復讐してやるのさ。受けた痛みと屈辱を何万倍にもして返してやるよ」


 僕はパチパチと拍手しながら答えた。すると、ヴェルガーは困ったようなあきれたような表情を作った。


「はぁ、やれやれだぜ。やっぱテメェはとことん無能だわ。身のほどってもんが分かってねぇ」


 肩をすくめ、首を左右に振りながら言葉を続ける。


「Sランクダンジョンから生きて出られるだけの力を身につけたことで、俺に勝てるって自信を持ったようだがな、そいつは見通しが甘すぎるってもんだぜ。なんせ俺の職業ジョブは竜騎士だぞ? あらゆる職業ジョブの頂点、五本の指に入るほど優れてんだ。さらに、その竜騎士の中でも俺は頭一つ抜けてんだよ。相手が神だろうが悪魔だろうが、こんな超絶天才の俺にかなうわけねぇだろ。現実を見やがれ、無能が」


「ずいぶんと大きい口を叩くじゃないか。まあ、そういうヤツだからこそ面白いけれどな。ふっ、これは見物みものだ。現実が見えていないのは自分の方だったって知ったとき、お前がどんな顔をしてくれるのか楽しみだな。せいぜい無様に踊れよ、道化が」

「なんだと?」


 不遜ふそんな物言いに対して僕が冷たく言い返してやると、ヴェルガーの瞳が剣吞けんのんな色を帯びた。


「……テメェはどうやら、せっかく拾った命をムダにしてぇようだな。いいぜ、返り討ちにしてやるよ」

「ふっ、できるといいな」


 僕は鋭く睨んでくるヴェルガーに微笑むと、手に持っていた魔剣を消した。


「あん? なんで剣を仕舞しまったんだ?」

「お前を殺すのに剣を使うつもりがないからさ。なにしろ、お前には理不尽に何度も殴られたんだ。こっちはそれ以上に殴り返してやらないと気が済まないからな」


 そこで一拍置いてから、僕はヴェルガーを手まねきして挑発した。


「ほら、返り討ちにしてくれるんだろ? かかってこいよ。神や悪魔を超えるとまで豪語する竜騎士様の実力ってヤツを見せてみろ」

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