第21話 竜騎士ヴェルガーを殺そう 1/4

 

 それを聞いて、僕はいてもたってもいられなくなった。


「リリム、仲間になって早々に申しわけないが、僕はこれから大急ぎでやらなきゃならないことがあるんだ。すぐに行かなきゃならない。そして悪いんだが、これは僕にしかできないことだから、お前を連れてはいけないんだ」

「あ、そうなんすか」


 いきなり僕にそんなことを言われたリリムはちょっと残念そうにしていたようだが、すぐに表情を明るくして了承してくれた。それから僕はリリムが滞在している宿屋を教えてもらい、用事が終わったら訪ねると約束して別れた。


「ふ……ふふふっ……まさか、こんなに近くにいたとはな」


 僕は体がはち切れそうなほどの歓喜に震えながら、情報収集と復讐の準備を開始した。




≪side.ヴェルガー≫




 俺は勇者パーティから一時的に離れていた。【竜神の試練】を受けるためだ。竜神の試練を突破して得られる究極の力は、魔王を倒すために絶対に必要だからな。


 辺境伯領最大の都市・リトリオン。そこから南に数十キロメートルほど行ったところに竜神のほこらがある。俺は数日間、その内部にいる竜神から与えられる数々の難題と格闘していた。


 だが、試練はもう佳境かきょうだ。早ければ今夜にもケリがつく。……くふふっ、魔王と戦ってきた歴代の竜騎士たちが数ヶ月はかかったっていう竜神の試練を数日でクリアかよ。やっぱ俺は天才だ。自分の才能が怖いぜ。


 ってなことを考えていたら、馬車がリトリオンに到着した。


 ふぅ、疲れたな。早く宿に行って休みたいぜ。魔力が空っぽで体がダルいからな。


 重くなった体にかつを入れ、俺は予約しておいた宿屋へと足を進めた。


 俺が通りを歩くと、周りのヤツらがすぐさま道をあける。どいつもこいつも尊敬と羨望の眼差しを向けてきやがる。子供から老人まで、男も女も関係なくな。ちょいと手を振ってやれば感激の声を上げる。涙を流してその場に膝をつくヤツまでいやがる。くふふっ、気分がいいぜ。


「あの、ヴェルガー様!」

「あぁん?」


 俺が上機嫌でそいつらを眺めているところへ、横から呼び止められた。


「宿はもうお決まりですか!? お決まりでなければ、うちに泊まって行ってくださいませ!」


 すぐそこにある宿屋の主人なんだろう。建物を指さしながら必死にすすめてくる。


「悪いな、宿泊場所はもう決まってんだよ。明日でもいいなら泊まってやるが?」

「ええ、ぜひ! もちろん、お代はけっこうですから!」

「そうか? ありがとよ」

「とんでもないです!」


 ペコペコと何度も頭を下げてくる。しょうがねぇな。安っぽい宿だが、どうしてもっていうなら泊まってやるよ。俺は寛大だからな。


「ヴェルガー様!」

「あん?」


 今度は何だ? 


 振り向くと、そこには数十人の若い娘がトロンとした表情を浮かべて立っていた。


「わ、私と握手していただけませんか!?」

「私とも!」

「いえ、次は私よ!」

「ずるい、こっちが先よ!」

「あの……私は頭をなでてほしいでしゅ」

「あ~ん、私を抱いてぇ!」


 そいつらがドッと俺に群がってきやがった。


「お、押すな押すな! 順番に並びやがれ! 俺の体は一つしかねぇんだからよ!」


 ったく、困ったメスブタどもだ。だが、俺が魅力的すぎるせいでもあるから、しゃーねぇか。へっ、モテる男はつらいぜ。


「俺様も暇じゃねぇんだ! 暇になったら相手してやるからいい子で待ってろ!」


 対応しきれねぇヤツらにそう断って、なんとか肉壁をかき分ける。そんなことを何回か繰り返して、ようやく宿にたどり着いた。部屋に入るなり、泥みてぇにベッドへ倒れ込む。


 かぁ〜、ストレスが溜まるよな。街や村へ行けば、あんなブタどもがひっきりなしに寄ってきやがる。いっときも放っといてくれねぇから、心も体もちっとも休まらねぇ。はぁ、しんどいぜ。どこかで発散しねぇと身がもたねぇよ。


 あーあ、どっかに無職の人間でもいねぇかなぁ。あいつらは存在価値がねぇゴミクズだし、ストレスのはけ口としてボコッても問題ねぇだろ。あの荷物持ちみてぇな天涯孤独のヤツをダンジョンに連れて行けばいいんだ。そうすりゃ、たとえやりすぎて死んだとしても大丈夫だしな。ジュダスにはいいストレス発散法を教えてもらったぜ。感謝しねぇとな。


 ……くふふっ、しっかし。つくづく俺は、あいつの仲間になれてよかったって思うぜ。頭はいいし、実行力もあるしな。なにより、人をきつける求心力がある。さすが、この世で最強の勇者って職業ジョブを備えているだけのことはある。しかもあいつ、アイン王国の王子でもあるもんな。


 国王も王妃もたいした職業ジョブじゃねぇのに、よくあんな優秀な子供が生まれたもんだ。トンビがタカを生むどころか、ドラゴンを生んだようなもんだろ。職業ジョブってのは絶対に受け継がれるってもんでもねぇが、それにしてもすげぇよな。


 ま、なんにせよ、あいつはいずれ国王になる男だ。しっかりいいとこ見せて、俺の有能さをアピールしとかねぇと。この魔王討伐での働き次第で、俺の今後の人生が大きく変わっていくからな。


 うまく結果を出せれば近衛騎士団の団長に取り立ててもらえるかもしれねぇんだ。そのためにも、さっさと試練を終わらせねぇとな。


 俺は父上みてぇに伯爵なんて地位に留まるような小せぇ男じゃねえ。もっと上へ行けるだけのデカい器があるんだからなぁ。




 その後、たっぷりと睡眠をとって魔力と体力を回復させると、俺は再び竜神のほこらへと向かった。

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