第19話 冒険者ギルド (前編)


「ぐぅぅぅ、ちくしょう……」


 ゲビンがうらめしそうな顔でリリム少年に報酬の入った革袋を手渡す。それが済むと逃げるようにそそくさと立ち去って行った。その際、一度だけ振り向いて僕をにらんできた。


 ふむ、僕のことが気にくわないらしい。まったく、僕を憎むなんてお門違かどちがいなんだがな。……と、それはさておき。



じぃー



 なんだろう? リリム少年がジーッと見つめてくるのだが? それに……なんだか、ほっぺたが赤いし呼吸も乱れているな。熱でもあるのだろうか?


「どうした? 大丈夫か? 具合が悪いのか?」


 僕は熱を測るためにリリム少年のおでこと自分のおでこをくっつけた。


「ふみゅっ!?」


 なんか変な声が出たな。っていうか、熱っ!


「おい、めちゃくちゃ熱があるじゃないか! 早く教会に行って治してもらえよ!」


「あ、あの、その」


 僕が忠告したけれど、リリム少年はもじもじしているばかりでまったく動こうとしない。どうしたんだ? しばし考える。


「……ああ、そうか! 歩けないほどツラいのか! よし、分かった!」


 僕はリリム少年の背中と膝の裏へ手を回し、抱き上げた。いわゆる、お姫様だっこというやつだ。


「ひゃっ!?」


「さあ、教会の場所を教えてくれ! つれてってやるから!」


「はわ、はわわわわわわわわ……」



がくっ



「お、おい! しっかりしろ!」

 

 気を失っちゃったぞ!? これはマズい!


 僕は急いで近くの人に教会の場所をたずねた。そして無事にたどり着くと、事情を説明してリリム少年を預けたのだった。




◆ ◇ ◆




 さて、仕切り直して冒険者ギルドへ行こう。


 来た道を戻ると、僕はギルドの建物の扉をくぐった。入るとまず、酒の匂いに出迎えられた。どうやらここは、酒場併設型のギルドらしい。向かって左手側に丸いテーブルが並び、そこには昼間から酔っぱらっている男たちの姿が見える。


 正面の壁には依頼書が貼られた大きな掲示板があり、右手側には受付カウンターがあった。受付嬢たちがニコニコと愛想の良さそうな表情でこちらをうかがっている。


「登録と再発行の窓口は…………あそこか」


 僕はカウンターの右端にいる受付嬢のもとへ歩み寄った。


「ようこそ冒険者ギルドへ。新規登録をお望みの方ですか?」

「いえ、冒険者証を失くしてしまったので再発行してほしいのですが」


当方とうほうで登録なさった方ですか?」

「いえ、王都の冒険者ギルド本部で登録しました」


「そうでしたか。では、本部へ問い合わせて情報を照会いたします。お名前をお教え願えますか?」

「マッド・ナイトウォーカーです」


 受付嬢が羊皮紙に羽ペンを走らせる。あれは≪真実の羽ペン≫だな。虚偽を書くと、たちまちインクの色が変化するという優れたアイテムだ。


「……はい。ではマッド様。10日から2週間ほどお時間をいただきますが、よろしいですか?」

「え? そんなにかかるんですか?」


 まいったな。とてもじゃないが、そんなに待っていられないぞ。こうしている間にも、ジュダスたちはどんどん遠くへ行ってるんだ。


「う~ん、今すぐ必要なんですが……そうだ、再発行ではなく新規登録ならすぐにでも受け取れますよね?」


「新規登録ですか? しかしそうしますと、マッド様のこれまでの実績は反映されず、再びFランクから始めることなってしまいますが?」

「ああ、それは問題ないです」


 荷物持ちしかしてこなかったからな。実績もなにもないよ。7年経ってもFランクのままだったし。


「再度確認させていただきますが、本当によろしいのですか?」

「はい、大丈夫です」


「そうですか……。では改めまして、新規登録の手続きをさせていただきます。こちらの書類に必要事項をご記入ください」


 渡された羊皮紙を確認する。ふむ、名前と年齢と出身地以外の記入は任意でいいのか。相変わらず、必要最低限のことしか求められてないな。


 もっとも、冒険者の仕事は危険なものが多い。それなりに名声を得られるが、常に死と隣り合わせだというのなら、なりたいと思う人は少ない。だからギルド側はり好みしている余裕なんてないんだろう。まあ、僕は身分証代わりに冒険者証がほしいだけだし、そんなことはどうでもいいのだが。


 などと考えつつ、僕は必要事項を記入して書類を提出した。これであとは簡単なクエストを達成しさえすれば登録完了だ。

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