第21話 辺獄迷宮の内部で
ダンジョンとは、一定数以上の魔物が住み着いている場所や建造物などのことを指す。なので、一口にダンジョンと言っても多くの種類がある。洞窟型、森林型、廃城型、塔型、船型など様々だ。
そして【辺獄迷宮】はというと、地下に広がる巨大な
しかし、至るところに罠が仕掛けられていることに加え、ここに住み着いた魔物たちは非常に強力であるため、宝を手に入れるのは容易ではない。
なお、このダンジョンの中には突出して強い魔物がいるらしい。30階層以降のどこかで不意に出現するそいつらに探索を阻まれ、現在でも最下層がどこなのか判明していない。たしか、Sランク冒険者たちで構成されたパーティが46階層まで到達したという記録が最高なのだとか。
という話を、通路を歩きながらリリムが語ってきた。やけに詳しいな。ずいぶんと調べこんでいるじゃないか。よほど、このダンジョンの宝に興味があるようだ。
「あ! 兄貴、前方に魔物を発見したっす!」
ちょうど話が一区切りついたところで、リリムが声を上げた。彼女から視線を外し、前方へ顔を向ける。
石造りの通路の先に、一匹の魔物が確認できた。でっぷりと腹が出た緑色の巨体に、不釣り合いな細長い足がついている。例えるなら、カエルを数十倍に大きくしたような感じだな。
カンテラに照らされた体表がテカテカと光っているところを見ると、どうやらそいつは粘液で覆われているらしい。
「ふむ、あまりいい見た目じゃないな」
もっと正直に言えば、気持ち悪い。触りたくない。あれと一戦交えるのは抵抗があるなぁ。
そんな感想を抱いていると、リリムがすかさず≪鑑定≫を唱えた。
「兄貴、あれは【スワローフロッグ】っす! 体格に似合わず素早さの数値が高いんで注意してくださいっす! それと、長い舌での攻撃にも気をつけてくださいっす!」
「はいよ」
僕はリリムの方を見ずに
僕は嫌悪感から顔をしかめた。すると、スワローフロッグが突如としてその大きな口をパカッと開けた。意外にも、口内は鮮やかなピンク色をしていた。外見は汚いが、内側はキレイなんだな。
ビュッ
「おっ?」
思わず見とれていると、そいつの口から舌が飛び出してきた。なかなかの速度だ。これじゃあハエは止まれないだろうな。
ズバッ
「ゲェェェェェェ!!!」
「まあ、それでも余裕で対応できる程度なんだけれどな」
僕は、舌が触れる前に切断した。スワローフロッグが野太い悲鳴を上げる。よほど痛かったのか、細い前足でしきりに口内をなでている。僕はその隙に接近すると、そいつの肉体を縦に両断した。
「うえっ、剣がヌメヌメしてる」
最悪だ。さっさと戻そう。いったん収納すれば汚れやキズがない元の状態になるからな。このダンジョンでの探索を続けていて今さらながら知ったのだが、魔剣にはそういう性質があるんだ。これはものすごく便利だよな。
剣というのは普通、血や
手入れをする必要もないし、新しく買い替える必要もないから助かるよ。本当にいい拾い物をした。
「ふんふんふふ~ん♪」
「ん?」
僕がうっとりと魔剣を眺めていると、リリムが鼻歌まじりになにやら作業をしていた。スワローフロッグにナイフを突き立てている。
「なにをしてるんだ?」
「こいつの肉を切り取ってるんす! 調べたら、この魔物の肉は食べられるみたいなんすよ!」
「うっ……そ、そうなのか?」
「はいっす! あとで一緒に食べてみましょうね、兄貴!」
おえっ、丁重にお断り申し上げたい。……しかし、こんなキラキラしたリリムの笑顔を曇らせるような発言をするのも気が引けるよなぁ。うぅ、食べるしかないか。はぁ~。
と、げんなりしていたのが数刻前のこと。食べてみると、これがまた意外にも鶏もも肉みたいにジューシーで美味かった。
見かけによらないもんだなぁ。まあ、リリムの調理の腕がいいからかもしれないが。本当に、毎日でも食べたくなるほどに美味いんだよな、こいつの味付け。
ってなことをボソッとつぶやいたら、リリムのヤツはまた奇声を発しながらダンジョン内を転げ回りやがった。
そしたら色んな罠が作動して、矢とか槍とか岩とかが降ってきて大変なことになった。僕の救助が間に合ったからよかったけどさ。まったく、反省しろよな。
ん? なんでまた赤くなってんだよ。意味が分からん。
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