第2話 リリムとのゴブリン討伐 2/5


「向こうに洞窟がある。足跡はあそこに続いているようだな」

「そうっすね。……あ! ゴブリンっす!」

「ふむ、どうやらあそこがゴブリンの巣穴で間違いなさそうだな」


 入り口の脇には二匹のゴブリンが立っていた。見張り役だろう。伏兵がいるかもしれないので、近くの茂みに二人で身を隠して辺りをうかがう。


「……大丈夫そうだな」


 一匹でも逃がしたらまたすぐに繁殖するから、見落としがないようにしないとな。細心の注意を払いつつ、僕は剣を出現させた。


「え!? 兄貴、今どこから剣を出したんすか!?」

「あー……話はゴブリンを始末した後にしよう」


「これは失礼しましたっす! では兄貴、思う存分やっちまってくださいっす! オイラは兄貴のそばで、その勇姿をしっかりとこの目に焼きつけさせてもらいますっす!」

「あー、うん。邪魔にならないように気をつけてな」


 リリムが瞳を輝かせて見つめてくる。ちょっと……いや、かなり面倒だな。こんな風に四六時中ぴったりと張りつかれてたんじゃ復讐どころじゃないぞ。


 不安だな。適当な理由をでっち上げて別れようと思ったが、そう簡単にいくか疑問だ。一時的にそれで離れられたとしても、執拗しつように追ってきそうなんだよな、この子は。根拠はないんだが、なんとなくそんな気がする。


 いっそのこと姿をくらませようか? 僕が全力で走って逃げれば……いや、ムリだな、たぶん。


 う~ん、まいったな。……だが今は、とりあえずゴブリン退治に集中しよう。リリムへの対応は後から考えればいいさ。


 悩むのをやめ、僕は茂みから飛び出していって入り口のゴブリンの首を薙ぎ払った。



ズバッ!



「おおおおおおっ! 目にも止まらない速さだったっす! 二匹とも、悲鳴をあげる間もなかったっす!」

「討伐証明部位の回収は後でするとしよう。先に群れを全滅させるぞ」

「はいっす!」

「穴の中にはそこかしこに罠が仕掛けられているだろうから注意しろよ」

「了解っす!」


 そんなやりとりをしつつ、僕らはゴブリンの巣穴の内部へと足を踏み入れた。


「うっ、ものすごく臭いっす」


 リリムが鼻をつまんで顔をしかめる。


「ゴミは散らかしっぱなしだし、排泄物は垂れ流しっぱなしだからな」

「兄貴は平気そうっすね」

「慣れてるからな」


 僕はカンテラで辺りを照らしながら鼻声のリリムに平然と返答した。


 ふっ、冒険者を7年やってきたおかげで悪臭に耐えられるようになりました……か。我ながら笑えるよな。ははっ。


「やっぱり兄貴はすごいっすね~」


 いや、こんなことで感心されても困るんだが。


「それにしても静かっすね」

「ああ、ゴブリンは基本的に夜行性だからな。寝てるんだろう。まあ、チャンスだよな。ヤツらが起きる前なら楽にカタをつけられる。だから、ここからはなるべく音をたてないように進んで行くぞ」

「了解っす」


 ひそひそと小声で会話しつつ洞窟の奥を目指す。僕が先行し、リリムはその後ろにぴったりと張りつくように移動する。


 ……歩きづらい。近すぎやしないか? そんなに体を寄せてこなくてもいいだろうに。置いていったりしないっての。


「兄貴、前」

「ん?」


 リリムへ離れるように注意しようと思っていると、当の本人が僕の服をつかんで制止させた。


「罠があるっす」


 リリムが前方を指さすので、そちらを見やる。通路の少し先に幅が広くなっている場所があり、そこになにかが仕掛けられていた。ゆっくりと近づいていく。


鳴子なるこ、か」


 洞窟の壁にヒモを渡し、それに動物の骨をくくりつけただけの簡単な仕掛けだ。これに触れれば骨同士がぶつかり合って盛大な音が鳴る。侵入者対策というわけだ。


「ちゃちな罠だな」

「あ、ちょっと待ってくださいっす」


 僕がヒモをまたごうとすると、リリムに引き留められた。


「念のため調べておくっす。……≪鑑定≫」


 リリムがスキル名を唱えた。すると、瞳が緑色に光った。


「……嫌な予感が的中したっす。仕掛けはこれだけじゃなかったっす。鳴子の向こう側に落とし穴があるっす」

「む、そうなのか? 僕には普通の地面にしか見えないが……さすがは鑑定士だな」

「えへへー、またほめられちゃったっす」

 

 ふむ、この能力は魅力的だな。たしかに、とても役に立つ。かといって、つれていこうとは思わないが。一瞬だけ心がぐらついたけれど。……まあそれはそれとして、だ。


 ちゃちな鳴子で油断させておいて、うっかりまたげば穴の底へ真っ逆さまか。こんな二段構えの罠なんて手の込んだものを、ただのゴブリンが仕掛けられるだろうか? 


 それに、この落とし穴は人間の目から見てもそれとは分からないように作られている。こんな知恵や技術はヤツらにはないはずなんだが。


 ううむ、やはり村人たちの言っていたことは正しいようだ。誇張や記憶違いがまじっていると思っていたが、そうではなかった。

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