第二章

賢者ディーンを殺そう

第1話 リリムとのゴブリン討伐 1/5


―――ヴェルガーへの復讐を果たした翌日。


 僕とリリムは、ゴブリン討伐クエストの依頼元の村を目指して歩き始めた。その道中、リリムがこんな質問をしてきた。




「ねぇねぇ兄貴? どうしてゴブリンなんて弱っちい魔物の討伐を引き受けたりしたんすか? 兄貴なら、もっと高難易度のクエストだって受けられるでしょう? なんたって、あのAランクのゲビンが手も足も出ないくらい強いんすもん。兄貴はSランク……ううん、Exランクの冒険者っすよね?」


 僕がExランク? ……ふむ、なるほど。周りの人からは、今の僕の強さはそれくらいに見えているのか。


 冒険者のランクはF、E、D、C、B、A、S、Exとあって、Exは最高ランクだ。そこに到達できた冒険者は世界に数人しかいないって聞いたな。


 無職で万年Fランクだった僕がExランクかぁ。悪魔が宿った装備の力は本当に絶大だな。僕みたいな最底辺の人間を最高峰まで押し上げてくれるんだから。


 これは、足を向けて眠れないな。……って、そもそも一体になっているから足の向けようがなかったな。ははっ。


「兄貴、どうしたんすか? 黙り込んじゃって」

「……ん? ああ、すまん。ちょっと考え事をしていた。なんの話だったか?」


「だぁかぁらぁ、どうしてゴブリン討伐なんてショボいクエストを受けたのかってことっすよ」

「ゴブリン討伐がショボい……か」


 そういえば、リリムは田舎から出てきたばかりって言ってたな。なら、そんな風に勘違いしていてもしかたないか。


 ふむ……そうだな。ここは一つ先輩として正しい知識を教えてやるか。


「えっとな、リリム。ゴブリンはたしかに弱い魔物だ。力も体格も人間の幼児くらいしかないからな。しかし、ヤツらは繁殖力が異常なほど優れているんだ。放っておくとどんどん増えて、とんでもない脅威になる。だから、あなどっちゃいけないんだ」

「ふみゅ……そうだったんすね」


「そうそう。だからランクに関わらず、ゴブリン討伐は優先的に引き受けて数を減らさなきゃならないんだ。【冒険者はゴブリンに始まりゴブリンに終わる】という格言まであるくらい重要なクエストなんだよ」

「むむむ……オイラ、ゴブリンのことナメてたっす。すいませんっす、兄貴」

「まあ、まだ冒険者になって日が浅いんだろ? こういうことは、これから勉強していけばいいさ」


 なんて、エラそうなことを講釈こうしゃくしている僕だが、自分自身でゴブリン討伐するのはこれが初めてなんだよなぁ。ははっ、説得力がなさすぎて泣けてくる。




 などという一幕もありつつ、僕たちは歩き続けた。




「あ! 見えてきたっすよ! 依頼元の村が!」

「お、そうだな」


 二時間ほどして目的地に到着した。僕だけなら数十秒で行き来できそうな距離だが、リリムに歩調を合わせたのでそうなった。まあ、こうしてのんびり景色を楽しむのもいいだろう。


 それはさておき、まずは村人から被害状況などの詳しい情報をこうか。




『一ヶ月ほど前から被害がありましたが、ここ数日は特に酷くて……。昨日は三頭の羊が盗まれまして。その前日には牛が、そのまた前日には……』

『うちはここ数日で畑の野菜が根こそぎやられました』

『五日前のことです。子供たちがそこの雑木林の奥へと消えていくゴブリンを見たと……』




 僕たちはそんな村人たちの情報をもとに、子供がゴブリンを見かけたという雑木林を探索していた。


「あっ! 兄貴、こっちに来てくださいっす! これ、ゴブリンの足跡じゃないっすか!?」


 リリムが僕を呼ぶ。近寄って地面に視線を落としてみると、そこに小さい裸足の足跡を確認できた。


「ふむ、間違いなくゴブリンのものだ。でかしたぞリリム」

「えへへー」


 リリムが照れたような表情で後頭部をかく。


「この足跡をたどっていけば巣穴を見つけられそうだな」


 ゴブリンには足跡を消すなんていう知恵がないからな。これで一網打尽いちもうだじんだろう。ただ……村人たちの言っていたことに間違いがなれば、ちょっと厄介かもしれないが。


「さあ兄貴! ササッと行ってパパッとやっつけちゃってくださいっす!」

「……ああ」

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