第10話 罪と罰
……って、ドキドキしている場合じゃないだろ。ここからが本題なんだ。早く切り出せよ、僕。
「お、オホン」
と、一つ咳払いして頭から邪念を追いやり、改めてリリムと目を合わせた。
「あーしかし、そんな簡単に許されても困る」
「え?」
「リリムは、どっちも相手の裸を見ているわけだからお互い様だというが、男と女じゃ重みが違うだろ?」
「うん? う~ん? ……まあ、言われてみればそうかもしれないっすね」
「だろ? だから、ちゃんと責任を取らせてほしいんだ。この罪に見合う罰がほしい。そうしないと、いくらリリムが許してくれると言ったって僕は自分で自分を許すことができないんだ」
「ははぁ~。兄貴って、すっごい真面目な人っすねぇ」
感心と呆れが半々くらいといった様子でリリムが苦笑する。それから、アゴに人差し指をあてて小首をかしげた。
「でも、罰がほしいだなんて言われても困るっすよ。ただでさえ兄貴には恩があるのに」
「別に、たいしたことじゃなくていいんだ。僕にしてほしいこととか、手伝ってほしいこととか、そんな簡単なことでもいい。とにかく、僕はリリムのために何かをすることで自分を納得させたいんだ」
「してほしいこと……」
リリムはしばらく
「なら、オイラを【辺獄迷宮】へ連れて行ってほしいっす」
「【辺獄迷宮】……か。そういえば行きたがっていたな、お前」
「ダ、ダメっすかね?」
リリムが遠慮がちに尋ねてくる。一度冷たく断られているせいか、瞳にハッキリと怯えの色がうかがえた。僕は、そんなリリムをできるだけ怖がらせないように柔らかい口調で答えた。
「いや、ダメってことはない。そもそも僕に拒否権はないからな」
正直、そんなことで時間を浪費したくはなかったが、これも自分の罪にふさわしい罰だと思って受け入れよう。僕は重い腰をあげると、「ふぅ」と短く息を吐いて空を見上げた。
ホッとしている。ノドにつまっていたものが取れたような、そんな気分だ。……どうやらこれは、単に罪を清算できるからというだけじゃないらしい。最初に断ったときの罪悪感も同時になくなったからだろう。
「さてと、それじゃあ早速、リトリオンへ戻って準備をしなきゃな」
雲一つない夜空にキレイな三日月が浮かんでいる。その周りを五羽のタカが優雅に飛んでいた。
◆ ◇ ◆
「……おかしい」
村で一夜を明かし、リトリオンへ向けて歩いているときのことだった。僕は異変に気づき、足を止めた。
「どうしたんすか、兄貴?」
「あれを見てみろよ」
僕はアゴをしゃくって頭上を示した。
「あれって……タカっすか?」
「ああ、そうだ。五羽のタカが飛んでるだろ?」
「それがどうかしたんすか?」
「タカっていうのは基本的に群れない鳥なんだよ。繁殖期や渡りの時期なら別だが、今はそういう時期じゃない」
偶然、近いところを飛んでいるだけという可能性ももちろんある。昨夜だけなら、めずらしいこともあるもんだな、で済ませられた。だが、そんな偶然が何度も起こるはずがない。
「と、いうことは……」
「誰かにあやつられているんだろうな」
動物をあやつれる者となると、ビーストテイマーだろうか? ずっと僕たちの頭上を飛び回っているところを見ると、目的は監視か? だとすると誰が? 何のために? 監視対象は僕とリリムどっちだ?
ふむ……考えてもキリがないな。
「目的は分からないが、とりあえず目障りだ」
僕は落ちている石をいくつか拾い上げると、大きく振りかぶって投げた。
ピギィィィィィィ!!!
五回連続で
「うひゃ~、さすがっすね兄貴! あんなに遠くの的に当てられるなんて、びっくりっす!」
ああ、僕もびっくりだ。なんとなく当てられるような気がしたからやってみたら本当にできてしまった。攻撃力や器用さが爆発的に上がっているからだろうけど、それにしてもすごいな。
おっと、僕が驚いていたらおかしいよな。平静を装わないと。
「オホンッ。これくらいどうってことないさ」
また瞳を輝かせて見つめてくるリリムにそう返すと、何事もなかったかのように再び歩きはじめるのだった。
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