第17話 side.ゲビン ③


 カスケスといいズークゥといい、そろいもそろって腰抜けばかりだ。あんなヤツらに頼ろうとした俺がバカだったぜ。


 つーか、よく考えてみりゃ、別にあのクソガキの強さの秘密をあばく必要もねぇよな。俺があいつよりさらに強くなりゃあいいだけだからなぁ。


 なんたって俺はバーサーカーだ。あの勇者パーティのメンバーには若干劣るが、かなり優秀な職業ジョブなんだ。本腰を入れて鍛えれば、あんなクソガキがどんな小細工をしてようが関係ねぇ。余裕で超えられるぜ。


 ってことで、次の日。俺は鍛練たんれんのためにSランクダンジョン【辺獄迷宮】へと出発した。そこの魔物はいい経験値になるからな。レベルを上げるのにもってこいだぜ。


 馬車で二日かけて北東へ進む。すると、アスガルド辺境伯領とツヴァイ王国との境目あたりにそれが見えてきた。


 目的地に到着し、馬車を降りる。ちょくちょく休憩は挟んでいたが、それでも長いこと座りっぱなしで尻と腰が痛ぇ。俺は、その場で軽く体を動かして固まった筋肉をほぐした。それから、持ってきた荷物を漁って武器や防具で武装する。


 しっかりと装備を整えた。アイテムも十分に用意してきた。準備は万全だ。クックックッ、あのクソガキの泣きっ面が目に浮かぶぜ。


 よーし、そんじゃあ早速……


「ゲビンじゃないか」

「あん?」


 誰だよ? 人がせっかく意気込んで出発しようと一歩踏み出したところへ水を差したヤツは?


 肩すかしを食らってイラついた俺は、眉間に思いっきりシワを寄せて振り向いた。目を細めてにらむ。そこには、見知った顔があった。


「ゴーマンか」


 ちっ、うぜぇヤツに会っちまったぜ。


「ひさしぶりだな。どうしたんだ、こんなところで? もしかして、お前も鍛練しに来たのか?」

「別に、なんだっていいだろ」


「それに一人か? カスケスとズークゥは一緒じゃないのか?」

「うるせぇよ。どうでもいいだろ、んなこたぁ。テメェには関係ねぇ」


「はは~ん。さては愛想をつかされたな。さんざん威張り散らしてるわりに、いつまでもパーティをSランクに昇格させられない無能なリーダーじゃ、見捨てたくもなるわなぁ。ぷふっ、Sランク相当の実力はあるのに、しょっちゅう依頼主やギルドと揉めてるからだぜ。はんっ、ざまぁねぇな。俺より上等な職業ジョブを備えてるくせによぉ」

「だまれっ!!!」


 こいつ、俺よりランクが上だからって調子に乗りやがって! ホントうぜぇ、死ねよ!


 ああ、クソが! こいつのアホ面を見てるだけで胃がムカムカしてくるぜ! 思いっきりぶん殴りてぇ!


 ……だが、こらえろ。今は我慢だ。こんなところでこいつとやりあってもムダに消耗するだけだ。


 俺は顔の前に掲げた握り拳をなんとか引っ込めると、まだゴチャゴチャと耳障りな言葉を吐き出しているゴーマンを無視してスタスタとダンジョンへ入って行った。


 へっ、今に見てろよ。テメェなんてすぐに足下にも及ばなくなるぜ。俺が死ぬ気でダンジョンにこもって鍛練し続ければテメェなんてあっという間に追い越せるんだからなぁ。




◆ ◇ ◆




「おらぁぁぁ! ≪兜割り≫!」

「ギィィィィィィ!」


 俺はカマキリをデカくしたような魔物―――デスマンティスにスキルをお見舞いした。戦斧が頭をカチ割る。だが、それでも息の根を止めるには至らねぇ。


 大きな鎌みてぇな前足を高速で振り回してきやがる。俺はヤツに突き立てられた戦斧を手放し、回避に集中する。前もってスキル≪心眼≫を発動してたおかげでギリギリかわせた。


 そして、ヤツの鎌の間隙かんげきって側面へ回り込み、渾身の拳打を何発もぶち込んでやった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 ようやく、くたばりやがった。くぁ~、しんどいぜ。評判通り、ここの魔物どもはやたらと強靭だな。攻撃力も防御力も素早さも、なにもかもが高水準だ。少しも気を抜けねぇ。


 だが、それでこそいい鍛練になるってもんだぜ、クックックッ。この調子で魔物どもを片っ端から討伐していきゃあ、俺のレベルはぐんぐん上昇するだろうよ。


 ……っとと。やべぇ、ちょいとフラついちまった。だいぶ疲れてんな。俺としたことが、少しばかり張り切りすぎちまったみてぇだ。ここらで一旦、腰を下ろして休憩するか。よっこらせっと。



ガコンッ



「はへ? う、うああああああ!!!」


 座って壁に寄りかかった瞬間、なにか重い物が動いたような音がしたかと思うと、俺の背中を支えていた壁がふと消えて床が急に傾いた。


 俺は仰向けに倒れ込み、暗闇の渦へと真っ逆さまに滑り落ちていった。

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