第6話 漆黒の魔剣に誘われて
洞穴の中はとても暗かった。ここの壁には発光する性質を持った鉱石があまり含まれていないようだ。さっきまで明るい世界樹の近くにいたので、よけいに暗く感じられる。まだ目が暗さに慣れていないから足下がおぼつかない。僕は壁に右手をつきながら、ゆっくりと慎重に進んで行った。
……静かだ。僕の足音と服が体に擦れる音しか聞こえてこない。魔物の気配がないのはありがたいけれど、ここまで静かだとさすがに気味が悪いな。
それに、似たような外観の通路が続いているから進んでいるという実感がない。そればかりか平衡感覚が狂ってきて、まるで奈落の底にでも落ちていっているような気分になってくる。
怖い。本当にこのまま進んで大丈夫なのか? 一歩進むごとに弱気の虫がニョキニョキと顔を出してくる。いったん引き返そうかな?
そう思い始めた時だった。
「ん? 灯り……か?」
通路の先に出口らしきものが見えた。青白い光がこちら側にこぼれてきている。僕の口から、ふぅっと安堵の息がもれた。
暗闇だと不安を
そこには大きな四角い空間が広がっていた。壁から壁までは三十メートル以上、地面から天井までは十メートル以上あるだろうか? しかも、その地面や壁や天井は大理石のような滑らかな光沢のある石でできていて、まったく凹凸がない平面だった。
そして、壁には等間隔に青白い光を放つランプが設置されていた。それらを見るに、この空間は自然にできたものではなく、明らかに誰かの手によって造られたものだと分かる。
しかし僕の関心は、すぐに別のものへ移った。その空間の奥にある、祭壇の供物台に突き立てられている一本の剣に。
その剣は、柄も刀身も真っ黒だった。まるで闇を煮つめたような漆黒だ。この世のありとあらゆる不吉を
僕は、花の甘い蜜の香りに誘われる蝶のごとく、フラフラと近づいていった。自分でも、どうして足が動いているのか分からなかった。他の何者かの意思が僕の足を勝手に動かしているような、そんな不思議な感覚だった。
祭壇へとつながる石段を一歩、また一歩と上っていく。剣との距離が縮まるにつれ、心臓の鼓動がうるさくなっていく。どうしようもなく気分が高揚している。
ついに石段を上りきった僕は、ゆっくりと剣に手を伸ばす。愛おしいものに触れるときのような優しい手つきで柄を握る。剣は思いのほか、あっさりと抜けて僕の手に収まった。
―――その瞬間。
剣の柄から右手を介して刺すような冷気が伝わってきた。それは皮膚の表面をなでるように僕の全身を覆いつくし……
「ぐあああああああああ!!!」
まもなく、僕は激痛に襲われた。内臓が、筋肉が、血管が、骨が……体の内側にあるものが全部ぐちゃぐちゃに砕かれてかき混ぜられているようだ。あまりの痛みに立っていられず地面に倒れこみ、のたうち回りながら絶叫する。
やがて、目の前が真っ暗になった。
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