第13話 正体をあらわせ
僕はそいつを連れて冒険者ギルドの外へ出ると、薄暗くて
「よし、ここでいいだろう」
「どうしてこんなところに? 話をするだけなら……」
そいつが全てを言い切る前に僕は剣を出すと、振り向きざまに左足へ突き立てた。
「ぎゃああああああ!!!」
苦悶に満ちた悲鳴が上がる。僕はその耳障りな音が出る口を左手で塞ぐと、そのまま力任せに建物の壁へ押しつけた。
「お前は誰だ? 正体をあらわせ」
さらに剣を深く刺しこみながら命じる。すると、リリムの姿が
「ふむ、どこかで会ったことがあるような……。ああ、そうだ。思い出した。ゲビンと一緒にいたヤツだ」
二人いた仲間のうちの一人だな。名前は知らないが。まあ、別に知りたくもないし知る必要もないだろう。
「おいお前、何が目的だ? どんな意図があってリリムに化けて僕に近づいてきた?」
僕はそいつの口を覆っていた手を離してやった。
「プハッ、ハァ、ハァ…………ぐぅぅ、な、なぜだ!? なぜ、こんなに早く見破れたんだ!? 俺の≪ものまね≫は完璧なはずなのによぉ!」
へぇ、こいつの
≪ものまね≫と言えば、ものまね師の固有スキルだ。対象となる生物の姿形やステータスなどをそっくりに写しとる。ただし、記憶や装備なんかはマネできないんだったか。などと自分の頭にある知識を探りつつ、そいつの質問に答えてやった。
「指輪だよ」
「ゆ、指輪!?」
「リリムの母親の形見なんだとさ。あいつはそれを肌身離さず身につけているんだ。無くしたときには、この世の終わりかってくらいに
「けっ、説教なんざ聞きたかねぇや!」
そいつはふてくされたようにプイッとそっぽを向いた。
「アドバイスのつもりだったんだがな。気に障ったか? だとしたら謝るよ」
「テメェ、ふざけた野郎だな! 人を刺した状態で謝るもなにもねぇだろうがよぉ!」
「おっと、これは失礼した」
僕はそいつの足から剣を抜いてやった。傷口から血が流れ出し、赤いシミが地面に広がっていく。
「ぐぅ、いてぇ……ちくしょう、ひでぇことしやがる」
「それに関しては自業自得だと思うがな」
「だとしても、なにもここまでするこたぁねぇだろうがよぉ!?」
そいつが僕を睨みつけ、非難の声を上げる。その見当違いの怒りに、すかさず反論した。
「ここまですることないだって? おかしなことを言うんだな」
「なに!?」
「お前、想像してみろよ。突然、自分と近しい人間が別人に変わっていることに気づいたときの僕の気持ちを。正直、めちゃくちゃ怖かったからな。身の危険を感じるには十分な恐怖だった」
「むっ」
「だから、身の危険を感じた僕は次にこう考えた。そいつはこれから、どういう行動をとるだろう? ただ楽しく会話して終わりか? そんなわけないよな。だって、他人に化けるなんて手段をとって接近してきてる時点で、少なくともそいつが友好的じゃないことはハッキリしてるんだ。やましいところがないのなら最初から普通に話しかけてくればいいだけだもんな。それができないってことは、僕に対して敵意があるってことだ。ならきっと、僕を害する行為に及ぶはずだ。最悪、僕が殺される可能性だってある。いや、そうに違いない……ってな」
僕は相手の返答を待たずに続ける。
「恐怖に駆り立てられた僕はそう思い至って攻撃したんだ。でも、それは決してやりすぎとは言えないよな? 自分の身を守るために必死だったんだ。お前が僕と同じ状況に置かれていたら、おそらく僕と同じことをするんじゃないか?」
「……」
そいつはさも痛いところをつかれたといった表情を浮かべ、口をつぐんだ。どうやら納得してくれたらしい。なので僕は話を切り変えた。
「それはさておき、そろそろ本題に入ろうか。僕の質問に答えろ。お前の目的は何だ?」
「……」
問いかけたが、そいつは口を閉ざしたまま
「がぁぁぁぁぁぁ!!!」
両足を傷つけられ、そいつは地面に倒れ込んだ。自らの血にまみれ、服が赤黒く染まっていく。
「質問に答えろ。お前の目的は何だ?」
僕は膝を曲げてしゃがむと、笑顔のまま明るい口調で再度、同じ言葉をそいつの頭上に投げかけた。苦痛にゆがむ彼の横顔が、焦りと怯えも加わってか、さらにグニャグニャになった。僕の有無を言わせぬ雰囲気がよほど怖かったようだ。
「ひっ、ひぃっ!!! は、はは、はい!!! な、なんでもしゃべります!!! いえ、ぜひともしゃべらせてくださいぃぃぃぃぃぃ!!!」
口を割るまでとことん痛めつけてやろうと思っていたが、たった二回刺されたくらいで洗いざらい白状した。根性のないヤツだな。まあ、手間が省けたからよしとするか。
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