第14話 報酬と冒険者証


 それにしても、ゲビンには困ったもんだな。僕を逆恨みして、仕返しするために仲間を使って秘密を探らせるだなんて。自分に非があるくせにそれを認めようとせず他人を恨むなんてどうかしてる。きっと性根が腐ってるんだろうな。


「あ、あの~、ちょっとよろしいでしょうか?」

「ん? なんだ?」


 僕がゲビンを不快に思っていると、目の前のそいつがびるような声で尋ねてきた。


「へへっ、お、俺は全部、包み隠さずしゃべりました。だ、だから、俺のことは見逃して下さいますよね? ね?」

「ふむ……そうだな。お前はゲビンの命令で僕のことを探ろうとしただけだもんな。それに、もう十分に罰は受けてるしな」


 両足には、僕がつけた刺し傷が深々と刻まれている。この男への罰はこれくらいでいいだろう。……っと、このまま放置すると失血死するな。


 僕はそいつを担いで教会へ向かった。


 そして、そいつが傷を治癒されて出てきてから釘を刺しておいた。


「いいか? 二度と僕に関わるんじゃないぞ。またこんなことをしてみろ。次はケガくらいじゃ済ませないからな? ゲビンにもよく言って聞かせておけ」


 僕は、できるだけ凄味をきかせて脅しておいた。これであいつはもう、二度と僕にちょっかいを出してくることはないだろう。ゲビンも今後は、あいつがしっかりと説得してくれれば何もしてこなくなるはずだ。


 もっとも、仲間の言うことに素直に従うようなヤツだったら、最初から僕に仕返ししようなんて考えないのかもしれないがな。


「……ふんっ、まあいいさ。来るなら来いよ。叩き潰してやる」


 これまでさんざん色んなヤツらからしいたげられてきたけれど、僕はずっと涙を飲んで我慢してきた。


 でも、力を手に入れた今、もう我慢する必要がない。だから僕は今後、僕を害するヤツにはしっかりと報復させてもらうつもりだ。


 徹底的に、容赦なく、生まれてきたことを後悔するほど痛めつけてやる。




◆ ◇ ◆




 ギルドへ戻ってしばらくすると受付嬢に呼ばれたのでカウンターへ向かった。


「お待たせいたしました、マッド様。まずはこちらをお受けとりください。クエスト達成の報酬と、ギルドからのお気持ちです」


 彼女が、うやうやしい手つきで革袋を差し出す。


「うおぅ!?」


 受けとって中身を確認して、僕は思わず裏返った声を上げてしまった。ギルド内がシーンと静まり返る。周りにいる冒険者たちの視線が僕へ集中しているのが分かる。


 ……恥ずかしい。頬がほんのりと熱くなった。けれど、僕は頭を左右にブンブン振って羞恥しゅうちを追い払い、再び革袋の内部へ目を落とした。


 そこには、金貨10枚に銀貨と銅貨が4枚ずつ入っていた。


「どうかなさいましたか?」


 ものすごい大金を前にして震えていると、受付嬢が心配そうに顔を近づけてきた。


「もしや、金額にご不満が?」

「あ、い、いえ、そんなことないです」


 ギルドの定める報酬額は、Fランクのゴブリン1匹につき銅貨1枚。それを44匹討伐したから銀貨と銅貨が4枚ずつ。つまりその差額、この金貨が謝礼金ということになる。


 本当なら、ゴブリンシャーマンはAランクだから討伐しても金貨5枚なのだが、その倍も払ってくれたことになる。ギルドの誠意がひしひしと感じられる。


 ふぅ、こんな大金を手にしたのは初めてだったから取り乱してしまった。まったく、荷物持ち何回分だよ。一年以上も働いてようやく稼げるような額だぞ。偶然とはいえ、一度でこんなに儲かるなんてな。いままでの苦労がバカらしくなる。


 僕も、もう少し職業ジョブに恵まれていたら、今ごろはこれくらい稼げるようになっていたかもしれないんだよなぁ。はぁ~。


 無職として生まれてきた自分の不遇さを再認識して、やり場のない不平不満が胸を満たしていく。そこでまた、受付嬢から声がかかった。


「では、つづきまして。マッド様、こちらが冒険者証になります」


 渡されたのは、軽い金属でできた十数センチ四方の板だった。名前や出身地、冒険者ランクなどが記載されている。


「ありがとうございます」

「今度は無くされませんよう、くれぐれも注意していただきたく存じます」

「ははっ、すみませんでした。以後、気をつけます。では、これで」


 僕は苦笑しつつペコリと頭を下げて立ち去ろうとした。


「お待ちください」

「はい?」

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