第11話 惨劇の村
僕が目指しているのは、Sランクダンジョン【飢餓の洞窟】の最寄りの村―――ピンへ村だ。アイン王国のアスガルド辺境伯領に属している、人口およそ100人の小さな村だ。
村人は畑を耕して農作物を育てたり、森で狩猟をしたり野草やキノコを採取したりして生計を立てている。
一度、ジュダスたちと旅をしている途中で立ち寄ったのだが、とてもいい印象を受けた。裕福とは言えないが、彼らはみんな明るく牧歌的で、笑顔の絶えない人たちだった。
なにより、無職の僕をバカにする人が一人もいなかったところがいい。とても居心地がよかった。なんなら、
胸を弾ませ長い野道を歩いていくと、遠くに簡素な木の柵で囲まれた一帯が見えてきた。ピンへ村である。いやがうえにも心がウキウキする。しかし、しばらく眺めていると、僕は途端に違和感を覚えた。
「この時間なら、村の男たちは畑仕事をしているはずなんだが、畑に誰もいないな。それに、女の人たちは食事を作っているはずだから、
なんだか胸騒ぎがする。僕は全速力で村まで駆けた。周囲の景色がものすごい勢いで後ろに流れていく。ほんの数秒で、僕は村の入り口まで到着した。
「っ!?」
飛び込んできた眼前の光景に思わず息を
「なん……だ、これ?」
村の人たちが、そこら中に倒れている。その体から出た赤い液体が、地面にいくつも水たまりを作っていた。
「どうして……こんなことに……」
と、あるところで目が留まった。そこには、小さい子を胸に抱えるようにして横たわる女性がいた。
「バ……バレッタさん」
ピンへ村で宿屋を営んでいる人だ。美人で気立てがよくて、宿泊した時に食べた料理も美味しかったからよく覚えている。
「ということは……まさか……その胸に顔を
急いで駆け寄ってそばに膝をつき、二人の名を呼びながらゆすってみる。しかし、反応がない。
いや、それだけではない。
息をしていない。脈もない。心臓の鼓動も止まっている。生きていることを証明できるものが何一つなかった。
すでに二人とも息絶えている。その体には、先の尖った
「ひどい……こんな小さな子まで……プリムちゃんはまだ八歳だったんだぞ」
女も子供も見境なく殺されている。長いこと冒険者をやっていて人の死に触れる機会は多かったけれど、これほどの惨状を目の当たりにするのは初めてだ。
どれほど痛かっただろうか? どれほど苦しかっただろうか? どれほど怖かっただろうか?
むごたらしく殺された彼女たちのことを考えると胸がつまり、頭にカッと血がのぼる。
「ゆ、許せない! 誰がこんなことを!?」
魔物の仕業じゃない。これは人間がやったんだ。だって、踏み荒らされた畑には人間の足跡しかなかったからな。
ぎゃはははははは!
怒りに震えながら頭の片隅で思案していると、村の広場の方から大勢の品のない笑い声が聞こえてきた。
僕はゆらりと立ち上がると魔剣を出現させ、柄を握る手に力を込めた。頭は沸騰するほど熱くなっているのに、心は凍えるほど冷たくなっていた。腹の虫はいつの間にか、鳴くのを止めていた。
広場へ行くと、そこには和気あいあいと酒盛りしている集団がいた。
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