第5話 リリムとのゴブリン討伐 5/5


 ゴブリンシャーマンは一先ひとまず後回しにし、僕は洞窟内のゴブリンを全滅させた。その後、ロープでゴブリンシャーマンの手足を縛り、布で口を塞いだ。これでなにもできないだろう。


 僕たちは洞窟の外へ出た。リリムには、いったん村で待っているように指示し、僕はゴブリンシャーマンを肩に担いで雑木林の奥へと進んだ。


「ぐむむむぅぅぅ!!! んむぐぅぅぅ!!!」

「うるさいぞ。少し黙ってろよ」


 あばれるゴブリンシャーマンの頭を小突こづく。すると、そいつはジタバタと激しく体を動かし、大きい唸り声を上げた。どうやら逆効果だったらしい。面倒くさいな。


 だが、こいつの処理方法を知っていてよかった。そうでなきゃ今ごろ僕は死んでいた。あやうく、残りの三人への復讐ができなくなるところだった。


 でもまあ、僕だって伊達だてに7年も冒険者をやってない。さげすまれ、暴力を振るわれ、笑われながらも荷物持ちとして多くのパーティに同行したからな。そこで冒険者たちから学んだ知識が役に立った。初めて報われた気がするよ。


「……と、しみじみとしている場合じゃないな。あれを探さないと。こういう雑木林には必ずいるはずなんだが……おっ!」


 しばらくフラフラと歩いていると、とある木の根元に目当てのものを発見した。


「あったあった。オオスズメバチの巣」


 ゴブリンシャーマンの固有スキルの効果対象は【スキル保持者に直接的な攻撃を加えて体力を0にした相手】に限られる。なので対処法としては、自分では手をくださず、こういった毒虫なんかに襲わせるのが有効だ。こいつらだって人を害することがある存在なわけだし、一匹くらい犠牲にしても雑木林の生態系に影響はないからな。


「観念しろ。これでお前も終わりだ」

「ぐむむむぅぅぅ!!! ぐむぅぅぅ!!!」


「僕が憎いか? でもな、僕もお前が憎いんだよ。だってお前、そこまで進化するために一体どれだけの動物や人間を手にかけてきたんだ?」

「むぅぅぅ!!! むむぅぅぅぐむぅぅぅ!!!」


 僕は、あばれるゴブリンシャーマンを乱暴に地面へ叩きつけた。そして木の根元にできたオオスズメバチの巣を何度か蹴った。


 すると、そこから大量のオオスズメバチが飛び出してきた。そいつらが僕とゴブリンシャーマンに群がってくる。


「ぐむむむぅぅぅ!? んむぐぅぅぅ!!!」

「オオスズメバチっていうのはスズメバチの中でも特に危険なんだよ。高い毒性と攻撃性をあわせ持っていて、縄張り意識が強いから巣やエサ場を荒そうとするヤツには容赦しないんだ」


 ハチたちは最初、アゴをカチカチと鳴らして威嚇していたが、しばらくすると一斉に攻撃を開始した。ゴブリンシャーマンが悶絶もんぜつする。


「痛いだろう? オオスズメバチの毒針は太くて長いもんな。しかもこいつらは持っている毒液の量が多く、それがなくなるまで何度でも刺してくるんだ。さらに、こいつらはアゴの力も強くてな。噛まれるとシャレにならないんだ。……って、僕が説明しなくても、たっぷりと実感してくれていると思うが」


 もっとも、僕はまったく痛くもかゆくもないけれどな。こいつらの毒針やアゴでは僕の皮膚を傷つけられないようだ。まあ、そう思ったからこそ悠長にこの場に残っているわけだが。


 こいつがくたばるところをしっかりと見届けないといけないからな。確認を怠って逃がしてしまったら、さらに多くの被害者が出てしまうもの。


「ぐむぅぅぅぅぅぅ!!! んむむぐぅぅぅ!!!」


 地面にうつ伏せ、激痛に顔を歪めながら、ゴブリンシャーマンが僕に怨嗟えんさの視線を送ってくる。なんと言っているのかは分からないが、おそらく僕を口汚くののしっているのだろう。なので、僕も応酬してやることにする。


「ふんっ、ずいぶんと苦しそうだな。そいつはなによりだ。お前にはとことん苦しんだ末に死んでもらわなきゃならないからな。それが、お前たちが奪ってきた命に対するつぐないになるんだ」

 

 僕はアゴに手を当て、冷ややかに見下ろしながら続ける。


「さて、どれくらい長く苦しむことになるかな? なんせ、しょせんは虫の攻撃だ。死ぬまでにはかなり時間がかかるだろうからな。きっと、一分一秒が何時間にも感じられるほどの痛みが、お前を襲い続けることになるだろうよ。それは、どんな拷問にも勝る苦痛だろうなぁ」


 ゴブリンシャーマンの顔に、わずかに恐怖が見てとれた。僕は、その恐れを掻きたてるように、さらに言葉を紡いでいく。


「だが、お前が息を引き取るまで、その責め苦から解放されることはない。お前ができるのはせいぜい、一刻も早く死ねるように神様に祈ることだけだ。いや、お前たち魔物が祈るべき相手は魔王か? ……まあ、どっちでもいい。とにかく、僕はここでずっと見ていてやるよ。お前が地べたに這いつくばりながら無様に息絶えていく姿をな。ああ、一つ忠告しておくが、どれほどわめこうと助命を懇願しようと無駄だぞ。お前たちみたく平気で生き物の命をもてあそぶような魔物にかけてやる慈悲なんて、僕は持ち合わせてないからな」

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