第6話 リリムと討伐証明部位の回収
最初こそ反抗的な態度を崩さなかったゴブリンシャーマンだったが、それも長くは続かなかった。
小一時間も経過するころには盛大に涙を流しながら、擦り切れるような悲哀に満ちた声をもらし始めた。僕の同情を買おうと必死に目で、声で、全身で訴えかけてくる。
しかし、僕は揺るがず、ただひたすら凍てつく視線と罵倒の言葉を投げつけた。絶命するまで、ずっとそうしていた。こいつらに命を奪われたものたちに安らぎが訪れるようにと願いながら。
◆ ◇ ◆
ゴブリンシャーマンが息絶えるころには日が暮れようとしていた。辺りが薄ネズミ色に染まっていく。まだ仕事が残っているんだ。さっさと遺骸を片付けないと。おっと、そうだ。こいつの杖を回収しておこう。いい金になるからな。
本来なら、その魔物の討伐依頼を受けていなければ、いくら倒したところで報酬はもらえない。ただし今回のように、ギルドがクエストのランクを見誤って発注していた場合などに限り、ギルドは謝礼金を出してくれる。
ゴブリンの群れが大きくなっていたことに気づかず冒険者を危険にさらしたんだ。当然だよな。ふふっ、ゴブリンシャーマンはAランクの魔物だからな。いくらもらえるか楽しみだ。
しかし、それを手に入れるにはちゃんと仕事をしなきゃな。後回しにしていたゴブリンたちの討伐証明部位を回収しないと。それを怠ればクエストを達成したことにならないもんな。
急がないと。血の匂いに敏感な魔物が群がってきてゴブリンたちを食い散らかしてしまうおそれがある。そうなると部位回収ができなくなる。この辺りにはあまり魔物がいないようだが、それでも仕事は早いに越したことはないだろう。
一人でやってもよかったが、二人で手分けしてやった方が効率がいいと思い、僕はリリムを迎えに村へ行った。
すると、リリムが食事を用意してくれていた。村人たちが厚意で食材や調理器具などを融通してくれたのだという。
食欲をそそる香ばしい匂いが漂ってくる。すると、今まで鳴りをひそめていた腹の虫が盛大に合唱した。そういえば、色々あってまだ何も口にしていなかったんだ。
これはありがたい。僕はみんなに感謝しつつ、料理をいただいた。羊の肉と野菜を一緒に炒めたものだろう。味付けは香草と塩だけのようだが信じられないくらい美味かった。
僕がかなりの空腹だったということを差し引いても絶品だった。毎日でも食べたいくらいだ。
素直にそんな感想を述べたら、なぜかリリムは意味不明な言葉を発しながら地面をゴロゴロと転げ回った。あの奇行は一体なんだったんだろうな?
……いやまあ、あまり気にしないでおこう。
それはさておき。食事を終えると、僕とリリムは再び洞窟へと
「え!? その自在に出し入れできる剣、【飢餓の洞窟】で見つけたんすか!? あそこってSランクダンジョンの中でもかなり危険なところっすよね!? そんなとこに行って無事に戻ってこれるなんて、やっぱり兄貴はさすがっす!」
「あ、あははっ」
保留していた剣のことについてリリムが
おかげでリリムは、ますます僕のことを世界有数の冒険者だと信じ切ってしまったようだが……。でも、ウソはついていないよな。全てを語っていないだけで。それに、そう誤解してくれている方が好都合だ。うん。
と、僕が罪悪感を和らげるために自己弁護していると、リリムがさらに声を高くして話を切り出してきた。
「じゃあじゃあ兄貴! 【辺獄迷宮】に興味ないっすか!?」
「【辺獄迷宮】? あのSランクダンジョンか? まだ未探索なところが多くて、たくさん宝が眠ってるだろうって噂の」
「そう、それっす! 今後、行く予定はないっすか!?」
「ないな」
リリムの質問をバッサリと切り捨てる。しかし、なおもリリムは食い下がってくる。
「兄貴なら、いい稼ぎになると思うっすよ! それにオイラもいれば、まだ誰にも知られてない隠し通路だって見つけられると思うし、そしたらもっとたくさんお宝が手に入るかもしれないっすよ! どうっすか兄貴!? 行きたくなってきたんじゃないっすか!?」
「ならないな」
「ええ!?」
僕の目的はジュダスたちに復讐することなんだ。それ以外に興味はない。というか、このクエストを達成して冒険者証を手に入れ、商人ギルドでヤツらの情報をつかんだら……つかんだら?
僕はそこでハッとした。
……ああ、そうだ。
そうだったな。
ヤツらの情報をつかんだら、どうにか言い訳してお前との関係も終わらせるつもりだったんだ。
しょせん、お前と僕は
そのことを思い出した僕は、なおも【辺獄迷宮】を連呼してくるリリムに素っ気なく言い放った。
「さあ、この話はここまでだ。しゃべってばかりいないで手を動かせ。ゴブリンはまだまだいるんだ。この調子だと夜が明けてしまうだろうが」
「ふみゅ……分かったっす」
しょぼーん、という擬音が聞こえてきそうなほど、リリムはあからさまにガッカリしている様子だった。でもしょうがないだろう。僕にだって事情があるんだ。僕に非はない。
……なのに、リリムの悲しそうな表情を見ていると、どうしても悪いことをしたような気持ちになってしまう。だから僕は、罪の意識を振り払うように頭を左右に激しく振った。
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