漆黒の魔剣使い 〜足を斬られてダンジョンに置き去りにされた無職の僕は、悪魔の力を手に入れて強くなって生還したので勇者どもに復讐&『ざまぁ』します!〜

マルマル

第一章

竜騎士ヴェルガーを殺そう

第1話 囮 (前編)


「遅いぞ、荷物持ち! さっさと来い!」

「はぁ、はぁ……す、すみません」


 洞窟の一本道を重い足取りで歩いていると、筋骨隆々とした長身の男―――ヴェルガーが声を張り上げた。僕は肩で息をしながら謝罪しつつ重い荷物を担ぎ直して走った。


 僕の名前はマッド。マッド・ナイトウォーカー。冒険者だ。


 冒険者とは、人間に害をなす生物である魔物を討伐したり、貴重な薬草や鉱物を採取したりして生計を立てる者のことだ。


 そんな冒険者の僕は今、魔王討伐を目的とした勇者パーティに荷物持ちとして雇われ、凶悪な魔物がたくさん生息しているSランクダンジョン【飢餓の洞窟】を進んでいるところだ。


 目指すのは、このダンジョンの最奥部。そこに眠っているという伝説の聖剣を手に入れるためだ。


「ちんたら歩いてんじゃねぇよ! まったく、使えねぇな!」


 やっとの思いで前を歩く彼の横に並ぶと、僕の頭にガツンと衝撃がはしった。ヴェルガーが僕を殴ったのだ。


「す……すみません」

「すみませんすみませんって、テメェはそれしか言えねぇのか!?」

「うっ……すみませ……あだっ!」


 僕がまた謝ろうとすると、再びゲンコツが降ってきた。


「ヴェルガーくん、そのくらいにしなさい」


 僕が頭を抱えていると、細身で神経質そうな眼鏡の青年―――ディーンが心配そうな顔つきで止めに入ってきた。


「なんだよディーン!? こいつをかばうのかよ!?」

「違いますよ。マッドくんのような無能がどうなろうと構いません。しかし、あまり大きい声を出さないでください。洞窟に生息している魔物は音に敏感なんですから。なるべく戦闘は避けたいでしょう?」


 ただし、僕の心配なんて毛ほどもしていなかったが。それはさておき、ディーンの言葉を聞いたヴェルガーは「ちっ、たしかにな」と吐き捨てると、さっさと先へ進んで行った。ディーンも彼の背中を追うように続いた。


 その際、ヴェルガーとディーンは僕に冷ややかな視線を投げつけていった。まるでゴミを見るような目だった。いや、きっと二人には本当に、僕がゴミに見えているのだろう。それが分かると悲しくなった。


「まったく、荷物持ちすら満足にできないだなんて、これだから無能はイヤですわ。そのざまでは荷物持ちというより、あなた自身がお荷物ではないかしら?」


 さらに追い打ちをかけるように、純白の僧衣に身を包んだ女性―――テレジアの、嫌悪感をたっぷりと含んだ声が届いてきた。それに対して、中性的な顔立ちの美少年―――ジュダスがあざけるような口調で応じる。


「しかたないさ。マッドを俺たちと比べちゃダメだよ。だってこいつは、職業ジョブを持たない最低最悪の【無職】なわけだしさ」

「……」


 僕たちが住むこの世界の人間には大抵、生まれつき職業ジョブというものが備わっている。


 職業ジョブは生涯を通して変わることがないため、人生を左右する重要なものだと言える。なぜなら、職業ジョブは人間の能力に大きく影響を与えるからだ。


 だというのに、僕は職業ジョブを持たずに生まれてきた。業がいから無職。役立たずのゴミに等しい。多くの人はそう考えているのだろう。


 おかげで僕は色んな人たちからバカにされてきた。心ない言葉をかけられ、嘲笑され、理不尽に暴力を振るわれた。今だってそうだ。


 悔しくないと言えばウソになる。それでも僕は、じっと我慢して耐えるしかなかった。だって、無能であることはまぎれもない事実だもの。


「おい、荷物持ち! 遅いんだよ! ったく、何度言わせりゃ気が済むんだ!?」

「は、はい! すみません!」


 また怒鳴られたので急いで追いつく。するとまた、僕の頭に激痛が訪れた。ずっとこの繰り返しだ。今だけではなく、冒険者になってからずっと。


 正直、何度やめたいと思ったか分からない。しかし、無職の僕には他にできる仕事なんてない。だって、無能だから。


 土地を切り開いたり田畑を耕したりする力もなければ、武器や防具を作れるような器用さもないし、踊りや歌で人々を魅了することもできない。


 つまり、無職の僕ができる仕事となると荷物持ちくらいしかないんだ。だから僕は今日も、どんなに殴られても怒鳴られても嘲笑されても我慢するしかないんだ。







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