第4話 復讐を誓う

 その凄まじい声を聞いて、自分の置かれた危機的状況にハッとする。


「に、逃げないと!」


 そうだ、今は座り込んでいる場合じゃない。魔物が押し寄せてくる前に洞窟を出ないと。そう結論した僕は頑張って立ち上がると、ケガした左足を懸命に引きずって出口を目指した。


 一歩進むごとに太ももに激痛がはしり、額から脂汗が噴き出す。血を失いすぎたせいか目がかすむ。それでも決して歩みは止まらない。ジュダスたちへの怒りと憎しみが原動力となって僕の身体を勝手に突き動かす。


「くそっ、くそっ! どうして僕がこんな目にあわなきゃいけないんだ!? 僕が何したっていうんだよ!? 僕はただ、精一杯生きているだけじゃないか! 幼い頃に両親を流行はやり病で亡くしてから、僕はずっと一人で頑張って生きてきたんだ! 職業ジョブを持たずに生まれてきて! 多くの人たちから殴られて蔑まれて笑われて! それでもずっと我慢して生きてきたんだ! なのに……なのに……どうして囮になんてされなきゃいけないんだ!? ちくしょう、ふざけるな! 人の命をなんだと思ってるんだ!? くそっ、くそっ、許さない! こんなこと、許されるはずがない! ただでは済まさないぞ! 覚えていろよヴェルガー、ディーン、テレジア、ジュダス! 僕は絶対に生きてここを出てやる! そしていつかきっと、たとえ何年かかってでも、地の果てまでだろうと追いかけて行って必ず復讐してやるからな! 殺す! 殺してやる! できるだけ長く苦しめてから殺してやる! お前たちから受けた屈辱と痛みを何万倍にもして返してやるぞ! そうじゃなきゃ、この怒りと憎しみは収まらない!」


 感情がせきを切ったようにあふれ出す。長い年月をかけて胸の奥深くに積もりに積もったものが、ジュダスたちへの呪いの言葉とともにつむがれていく。




グォォォォォォ!!!




 ひとしきり言い終えて間もなくのことだった。


 ドシンドシンという大きな足音が猛烈な勢いで僕にせまってきたかと思うと、ビュッと耳元で風切り音がした。それとほぼ同時に、右腕に強烈な衝撃を受けて僕の身体は吹き飛ばされた。洞窟の壁に左肩から叩きつけられる。


「っっっ~~~!!!」


 かつて味わったことのない痛みに、僕の口から声にならない声がれる。見れば、衝撃を受けた僕の右腕は肉がけ、肩口から折れた骨が突き出していた。おぞましい光景に眩暈めまいがして、僕は身体からスッと力が抜け、壁をズルズルと滑り地面にくずれ落ちた。


 ほどなくして、視界の端に巨大な影が映った。激痛に顔をゆがめながら見上げてみると、そこにいたのは熊のような魔物だった。どうやら僕は、こいつに攻撃されたらしい。


 そいつは大股おおまたでゆっくりと近づいてくる。僕はなんとか逃げようと必死に痛みをこらえて、まだ動く左腕と右足を使ってナメクジのように地面をった。そんな僕に視線を落とすと、そいつは口端をつり上げた。獰猛どうもうで凶悪な笑みを浮かべている。


 どうやらその笑顔のわけは、エサにありつけることが嬉しいというだけではないようだ。無様に地を這う僕を見下し、嘲笑あざわらうような色も見える。その顔が、どこかジュダスたちと重なって見えた。


 この野郎! お前まで僕をバカにするのかよ!?


 さらに怒りが増し、それはついに痛みを上回った。激痛と失血により途切れそうになっていた意識がえわたる。せばまっていた視界がにわかに広がった。おかげで、それに気づくことができた。すぐ横の壁と地面の境目に穴があったのだ。


 パッと見ただけだが奥行きはありそうだ。ひとまずここへ飛び込めば目の前の脅威きょういからは逃れられるかもしれない。幅が狭いけれど細身の僕ならなんとか通れるだろう。迷っているヒマはない。こうしている間にも、多くの魔物の足音が聞こえてきているんだ。


 チラッと頭上の魔物へ視線を移す。そいつはニヤニヤとしているだけで襲いかかってくる気配がない。僕が反撃しないのをいいことに油断しているのだろう。その隙をついて僕は、あらん限りの力を左腕と右足に込めて穴の中へ体をもぐりこませた。


「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 途端に、僕の体は勢いよく滑り出した。穴の中は急勾配きゅうこうばいの斜面が続いているらしく、まったく止まる気配がなかった。

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