第8話 強力なスキルを獲得していた


 かなり時間をかけて隅々まで探し回った結果、僕がここへ来たときに通ってきた坂道のほかに地上へ続いている通路はないということが判明した。


「うぅむ、ちょっと不安だな。いくら魔剣のおかげで身体能力が上がっているとはいえ、本当にたどりつけるのか?」


 なにしろ、滑り落ちているときは永遠に坂が続いているんじゃないかと思ったくらいなんだ。しかも通路が狭くて立つことができないから、ほふく前進していくしかない。その過酷さを想像しただけで気持ちが沈む。僕の口から深い溜息が何度もこぼれてしまう。


「……けれど、それしか地上へ戻る道がないのならしょうがないよな。はぁ~、覚悟を決めるか」


 僕は頬っぺたを両手でパァンと叩いて気合を入れる。そして、横の地面に突き刺しておいた剣を手に取った。しかし、ここであることが気になった。


「剣は、さすがに抜き身のままだと危ないよな」


 さやはなかったっけ? さっきの空間を調べてみるか。


 そう思い、きびすを返そうとした時だった。突然、剣が黒い粒子となって右手に吸い込まれるようにして消えてしまった。


「え!?」


 慌てて見やると、右手の甲に黒いヤギの頭のような形をした紋章が刻まれていた。


「……驚いたな。特別な力が宿ったレジェンド装備と呼ばれる武具は、持ち主と一体になって念じるだけで出現させたり収納したりできるそうだが、これもそうだったのか。ジュダスの聖剣とそっくりだ。へぇ、高性能じゃないか。使い勝手がよくて助かる。気に入ったぞ」


 思いがけず剣の有用性を知ったことで気分を良くし、さっきまでの沈鬱ちんうつな感情も和らいだところで、僕は改めて腹をくくると坂を登り始めたのだった。




◆ ◇ ◆




 どれほど時間が経ったころだろうか? 変わらない景色ばかり続いたし、無心で同じ動作を繰り返していただけだったのでよく分からないが、無事に出口まで辿り着くことができた。少し感動を覚える。


 しかし、すぐに気持ちを切り替えて、おそるおそる穴から頭を出して左右に目を向けた。魔物の姿はなかった。≪アトラク≫の効果はもう切れているようだ。それを確認して通路から抜け出すと、今さらながら自分がまったく疲れていないことに気がついた。


「かなり長い坂道だったはずなのに……。どうやら僕の身体能力は、自分が想像しているよりも遥かに高くなっているみたいだな。これが魔剣の力か」


 右手の甲をしげしげと見つめながら独りちる。しばらくそうしていると、ふと疑問が湧いてきた。


「けれど実際のところ、今の僕はどれくらい強いんだろう? ……ふむ、気になるな。正確なところは分からないもんな」


 というか、そこをちゃんと把握しておかないとヤツらへの復讐に支障が出るよな。よろこび勇んで襲いかかったら、あっけなく返り討ちにあいました……ってなことになったら目も当てられないもんな。でも、どうやって自分の強さを調べれば……ん? 


 あっ! ああ、そうだ! そうだった! ステータスを確認すればいいじゃないか! 


 あまり確認することがないからすっかり失念していた。だって、見ても気が滅入るだけだったもの。能力値は伸びづらいし、スキルを獲得することもなかったからな。もし得られたものがあるとすれば、それは悲しさと虚しさだけ。


 ……って、感傷的になっている場合じゃない。早速、確認してみなきゃな。僕は生まれて初めてワクワクしながら目を閉じて念じた。脳裏に僕の情報が浮かび上がってくる。




※ ※ ※


マッド・ナイトウォーカー

レベル:666

職 業: 

種 族:人 間

状 態:正 常

スキル:≪万象断絶≫ ≪隠蔽≫

    ≪全能力値上昇・極大≫

称 号:≪悪魔に魅入られし者≫

装 備:≪狂虐の魔剣・インサニティア≫

    ≪麻の服≫ ≪革の靴≫


※ ※ ※



「……え?」


 まず目に飛び込んできたレベルに唖然あぜんとした。


「レベル666だって? 何かの間違いじゃないのか? 人間の限界レベルは100のはず……っ!? こ、これは!?」


 いつの間にかスキルを獲得してるじゃないか! しかも三つも! ……はっ、そうか! 魔剣が与えてくれる絶大な力っていうのはスキルのことだったのか!


 意識を下へとやると、ぽっかりとむなしい空白があるだけだったスキルのらんに文字が表示されていることに気づき、僕は興奮した。


 だってそれは、僕が喉から手が出るほどほしいと思っていたものなんだもの。みんなが持っているのに自分だけが持っていなくて、どれほどの疎外感と孤独感を味わったことか。どれほど羨望せんぼうし、切望せつぼうしたことか。


 夢にまで見たスキルを獲得したという事実が僕を有頂天にさせた。ドキドキしながら、それぞれのスキルに意識を集中させ詳細を表示していく。



●≪万象断絶≫

 任意発動型のスキル

 効果:この世に存在するあらゆるものを斬ることが可能となる

 効果時間:30秒

 魔力消費量:50



 うお!? なんでも斬れるようになるのか!? それが本当だとしたら、とんでもなく強力なスキルじゃないか! 魔力消費量が50と大きいけれど、それに見合った……いや、それ以上の効果だ!



●≪隠蔽≫

 常時発動型のスキル

 効果:外部からの干渉による個人情報の漏洩を防ぐ

 効果時間:永続

 魔力消費量:0



 ふむふむ……つまり、スキルやアイテムの効果で僕のステータスを調べようとするヤツがいたとしても、これがあるから知られることはないってことだな! 魔力を使わなくていいし、効果がずっと続くってのはかなり優秀だな!



●≪全能力値上昇・極大≫

 常時発動型のスキル

 効果:全ての能力値を爆発的に上昇させる

 効果時間:永続

 魔力消費量:0


 

 そうか、僕の身体能力が上がったのはこのスキルのおかげか! 爆発的に上昇ってことは、さぞかしすごいことになってるんだろうな!


 そう思い、スキルの効果によってどれほど能力値が向上したのか確認しようとしてレベルに意識を集中させる。途中で、これまた初めて獲得していた【称号】が気になったけど、別にこれがあるからといってステータスに影響を与えたりするものでもないので無視することにした。



※ ※ ※


体 力:???

魔 力:???

攻撃力:???

防御力:???

素早さ:???

器用さ:???


※ ※ ※



「……あれ?」


 ステータスらんを確認して、僕は首をひねった。


「能力値が全部【???】になってる」


 なんだこれ? こんな表示は見たことも聞いたこともないぞ。どうなってるんだ? というか、ここが一番知りたかったところなのに。これじゃあ何も分からないじゃないか。まいったな。




ドシンッ、ドシンッ、ドシンッ




「?」


 能力値が分からずモヤモヤしていると、重い足音が耳に届いてきた。目を開けてそちらをうかがう。するとそこには、熊のような巨大な魔物がいた。そいつは僕と視線が合うと、獰猛どうもうで凶悪な笑みを浮かべた。その、人を心の底からナメくさったような表情には見覚えがある。


「お前、あの時のヤツか!」

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