第6-8話 「よろしく頼むわね」
別館で手洗いポスターを貼り終えた俺は保健室へと向かっていた。
千国には本館にポスターを貼るように依頼したので、俺より先に戻って来ている可能性が高い。
そう考えながら保健室に入室すると、保健室には麻薙と直美先生の二人しかおらず千国の姿はなかった。
というか今朝麻薙と会話をして気まずい空気になってから麻薙とはまだ会話していないので非常に気まずい。
とはいえ気まずい雰囲気を出すわけにも行かないので麻薙についてはできるだけ触れないようにして会話をすることにした。
「あれ、千国はまだ戻ってないんですか?」
「ええ。ペンを返しに来た分遅くなってるんじゃない?」
「そういうことですか」
「健文くん、私が保健室にいることを気にするよりも千国さんがいないことを気にするなんてそんなの失礼だと思わない?」
まだ俺に対して何か怒っていることがあるのではないかと思っていたが、意外と麻薙の方はいつも通りなのか?
それならば萎縮することなくいつも通りの会話を進めればいいだけのはず。
「いや、失礼も何ももう麻薙が保健室にいることが当たり前すぎてなんの疑問も持たなかったわ」
麻薙は保健委員に入ったので保健室にいても何もおかしくはないし、そもそも体調不良で保健室に入り浸っているような奴なので麻薙がいることに疑問を持つことはなかった。
「今日は体調不良で来たわけではないけど少しくらい心配してくれてもいいんじゃない?」
「あー、そうだな」
「何よその反応、ちっとも心配してくれなかったのね」
「…‥心配したに決まってるだろ。保健室に来るなんて体調が悪いからって理由が大半なんだから」
今朝気まずい空気になってしまったことで麻薙ではなく直美先生に会話をしようとしたため、麻薙の体調については触れていなかった。
しかし、麻薙が保健室にいるのを見て、また体調を崩したのではないか、と心配したのは事実だ。
「そ、そうなのね……」
「お、おう」
「……私もう体調が良くなったみたいだから帰るわ」
「そ、そうなのか。気をつけて帰れよ」
「ええ。また明日からよろしく頼むわね」
「はいはい」
どうせまた無理なお願いをされるのだろうとは思いながらも、心の中で少しだけ喜んでいる自分がいたことで、麻薙からのお願いを嫌々引き受けるのも実は心地いいと思ってしまっているのではないかと気付いた。
麻薙が保健室を出ていってくれてよかった。
今の表情を見られたら何を言われるか分かったものではない。
「いいわね。青春って。私も職員室に戻るわね。千国さんが戻って来たら帰りなさいよ」
「了解でーす」
直美先生はニヤニヤと笑いながら保健室を出ていき俺は保健室で一人になった。
そして俺の視線は保健室に置かれた机の上にある一冊のアルバムに向けられる。
そう言えば直美先生は俺がポスターを貼りに行く前にこのアルバムを眺めてたんだよな……。
なぜかそのアルバムが気になった俺は椅子に座り、アルバムを覗き始めた。
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