第9-3話「帰った?」

 千国との昼休みを終えて教室に戻った俺は教科書を机の上に出して授業の準備を進めていた。


 麻薙に避けられているとはいえ、この状況をこのままにしておいていいとは思っていない。

 テストも終わったばっかりだし、授業は程々に聞いて麻薙との関係を改善させるための方法でも考えるとしよう。


「じゃあ授業を始めるぞー……って麻薙がいないな。誰か知ってる奴いるか?」


 先生の言葉を聞くまで気付かなかったが、教室内に麻薙の姿はなくその行方を知っているクラスメイトもいない。


「誰も知らないか……。まあ多分いつも通り保健室で休んでるんだろう」


 麻薙の行方は分からなかったものの、特に問題ないと判断した先生は授業を始めた。

 麻薙が教室にいない理由は分からないが、体調を崩しがちな麻薙のことなので先生の言う通り保健室で休んでいるのだろう。


 麻薙が体調を崩すのが珍しいのであれば気にもなるが、頻繁に体調を崩しているので気にはならなかった。


 むしろ教室内に麻薙がいない方が集中して麻薙との関係を改善させるための方法が考えられると捉えて俺は関係改善方法の検討を始めた。




 ◆◇




 放課後、保健室に行って麻薙の状況を確認することにした。


 午後の授業中ずっと麻薙との関係を改善させる方法を考えていたものの、いい方法は思い浮かばなかった。

 

 唯一思い付いたのは保健室で休んでいる麻薙と会話をしに行くことくらいだ。

 

 俺たちの関係が悪化していたことをなかったことのように接すれば今まで通り会話ができるかもしれないし、直美先生がいればなおさら会話はしやすくなる。


 保健室に到着した俺は扉を開けた。


「あら、健文くんいらっしゃい。今日は委員会の仕事はないはずだけど……すくニコ報でも書きにきたの?」

「いえ、麻薙に声かけとこうかと思って」

「麻薙さん? 麻薙さんなら放課後に入ってすぐ帰ったわよ」

「帰った?」


 タイミングが悪かった、と言うより麻薙は俺のことを避けており意図的に俺が保健室にくる前に帰宅したのだろう。

 授業が終わって放課後になれば麻薙と会話をすることが目的でなくとも、保健委員長の俺が保健室にやってくる可能性は高い。


 それなら放課後に入ってすぐ帰宅すれば俺と会わなくて済むと考えるのは自然なことである。


 それなら無理に追いかけるのも……。


 そう弱気になりかけもしたが、既に長い間麻薙とまともに会話できていないし、これ以上関係を拗らせる前に関係を改善しておきたい。


「分かりました。ありがとうございます」

「気をつけて帰るのよ」


 そうして俺は保健室を出て、麻薙の自宅へと向かった。

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