第9-2話「避けられてない?」

「それ完全に避けられてない?」


 屋上で千国と昼食を食べながら、先程の俺に対する麻薙の態度について相談すると予想通りの回答が帰ってきた。

 自分の中でもそうではないかとは思っていたが、まさかそんなはずは、と現実から目を背けていたので千国の答えを聞いて胸に矢が刺さったような感覚を覚えた。


「やっぱりそうだよな……」

「ほしくんの方から千国さんを避けてたんだし、麻薙さんがほしくんのことを避けるのもまあ頷けるといえば頷けるよねぇ」


 千国の言う通り、麻薙は俺が避けていたことに腹を立てて俺のことを避けてしまったのだろう。

 だとすれば、俺にできることは誠意を持って謝罪することくらいだが、謝罪をしようとして近づいていくのも嫌がられそうな気がする。


 --ってか俺、誰にこの話相談してんだよ。


 今麻薙の話を相談するには一番ふさわしくない相手に相談してるだろこれ。


 千国は理由を話してくれなかったが、俺にキスをしてきたということは、千国は俺のことが好きだと考えて間違いないだろう。

 そんな相手に、別の女子と仲直りがしたいと相談するなんて人間のすることではない。


 いや、まあ本当に千国が俺のことを好きなのかどうかは分からないけどさ……。


「だよな。でもこのままにはしたくないんだが……」

「私はこのままでいてもらってもいいんだけど?」

「まあ確かに……ってなに言ってんだおまえ!?」


 このままでいてほしいということは、俺と麻薙の関係がこのまま終わってしまえばいいと思っているということ。


 要するに、俺のことが好きだと言っているということにもなる。


 今まではっきりと口にしてきたことはない千国だったが、ここにきて確証を得られるような発言をしてきた。


「何言ってるんだも何も、もうこの前キスしちゃってるんだし当たり前の発言じゃない?」

「そ、それはそうだけど」

「そうは言ってもこのままほしくんと麻薙さんの関係が悪くなったことで私にチャンスが訪れてもいい気はしないからさ。私としては一旦仲直りはしてもらいたいと思ってる」

「開き直ったらすげぇ本音で話すな」

「これが私の本性だからね」


 千国がこれほどまでに積極的な人間だとは思っていなかった。

 千国とは保健委員会で関りがありどの生徒よりも千国のことを知っている気になっていたが、そう簡単に人の本性ってのは知ることができないんだな。


「……なんか安心したよ。千国にも人間らしい部分があって」

「なにそれどういうこと?」

「俺の目から見た千国って成人君子みたいな人間に見えてたからさ。千国らしさが見えたのが何となく嬉しくて」

「どんな目で私のこと見てたのか知らないけど、早く麻薙さんと仲直りするんだよ?」

「分かった。ありがとな」


 本性が見えたとはいえ千国は千国で、以前からの優しさは一つも変わることがなかった。

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