第1-3話 「死なない範囲なら助けてやるよ」
タイミングが良いやら悪いやら、直美先生の発言に俺は肩を落とした。
折角このまま麻薙と関わることなく帰宅できると思ったのに……。
「え、いや、でもこの人さっき自分も体調不良でテストを受けられなかったって話を……」
「そんなこと言ってたの? 違うわよ。あなたが倒れてたのを助けたから彼もテストを受けられなかったのよ」
直美先生の話を聞いた麻薙はバツが悪そうな顔をして目線を逸らしている。
麻薙を助けたのが俺だって話を自らするつもりはなかった。
それを言ってしまうと恩着せがましくなるし、気を遣わせたくはなかったからだ。
直美先生を恨めしく一瞥しておいたが、別に自分に非がある内容を話されたわけではないので攻めるつもりはない。
ちなみに直美先生は保健の先生ということもあり保健委員会の担当をしてくれており、委員長の俺とは密に関わっている。
そのせいで、というと言い方に問題があるが、直美先生とはどの先生よりも仲がいい。
「申し訳ないとか何かお礼を、なんて思ってるんならそんなこと考えなくていいからな。麻薙の方から俺に助けを求めてきたわけじゃなくて、俺が勝手に麻薙を助けたんだから」
「あらまぁそんな風に言えるなんて流石保健委員長ねっ。でも貰えるお礼は貰っておいた方が意外とその後の人間関係上手くいったりするのよ。てことで先生はお暇しまぁす。それではっ」
麻薙が気を遣わないようにと思って発言してるってのにあの先生ときたら本当にもう……。
保健の先生は保健の先生らしく生徒の健康のことだけ考えてればいいんだよ。
「……あなた、優しいのね」
「別に優しくねぇよ。保健委員長って立場の俺が蹲ってる生徒を助けないわけには行かないだろ?」
「へぇ……。じゃあもし私が屋上から飛び降りようとしてたら危険を省みず助けてくれる?」
質問の意図が分からず首を傾げる。
そんな質問をされたら麻薙が実際校舎の屋上から飛び降りようとでも考えていた人に見えてしまうし、あまりにも例え話が極端過ぎる。
「なんだその極端な例えは」
「極端な方が分かりやすいでしょ?」
「まぁ自分が死なない範囲なら助けてやるよ」
そう気だるそうに言うと、これまで硬かった麻薙の表情は一転して柔らかくなった。
「ふふっ。そこは自分が死んでも助けるって言うところよ」
「俺だって死ぬのは嫌だからな」
「正直な人は好きよ」
「--っ」
麻薙が俺に対する恋愛感情を抱いていないのは理解しているが、それを理解していたとしても学校1の美少女と称される程の可愛さを持ち合わせている麻薙から好きと言われてしまえば狼狽えてしまうものなんだな……。
これまで馬鹿にはしていたが、好きなアイドルから告白されたい、なんて言っている脳内お花畑なファンの気持ちが少しだけ分かった気がする。
思っていた以上にチョロい男なのかもな、俺。
「よし、それじゃあ体調が悪くなってきたから、今から私をお姫様抱っこして保健室まで運んでもらおうかな」
「……は? なに言ってんのお前」
見るからに体調が悪そうではない麻薙が体調が悪いと主張しても違和感しかない。
「だってぇ、自分が死なない範囲なら助けてくれるんでしょ? それなら体調が悪い私をお姫様抱っこをして保健室に運ぶくらい簡単でしょ?」
そりゃまあ屋上から飛び降りようとしている生徒を助けるのと比較したらお姫様抱っこして保健室に運ぶなんて造作もないことだけど--こいつ、絶対体調悪くないだろ。
もしかして、先程の質問も俺をおちょくるためだけにしてきたのか? だとしたら性格悪すぎるだろ……。
「別に運ぶ方法なんてお姫様抱っこじゃなくても他に色々あるだろ」
「えー、でも私、お姫様抱っこじゃないとなんだか体調が悪化しそうなんだけどなぁ」
「……」
「はやく保健室のベッドで寝かせてほしいなー」
「……はぁ。分かったよ」
麻薙の押しに負け、俺は渋々麻薙をお姫様抱っこして保健室まで運ぶことにした。
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